憲法典の上にあるもの





 

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 近代憲法は、沿革的にも、人間の自然権を保障する永続的な規範に国家権力を服せしめるために制定されたものである。憲法が法律と質的に区別され、最高法規たる性格を与えられる実質的根拠は、そこにある。この憲法の理念、すなわち基本的人権を保障することによって国家権力を制限し、かつ国家権力に一定の形体を与える立憲主義(法の支配)の原則は、古典的な自然法の理論をはなれて独立に意味をもつ憲法の本質とも言うべきものであろう。国民の制憲権の思想は、かような人権の憲法的保障をかちとるための手段として、アメリカ独立革命・フランス大革命に至ってはじめて体系的に主張され、憲法制度にもとり入れられたイデオロギー的概念であったのである。この立憲主義と国民主権(制憲権)との相互補完または目的・手段の関係は、現代においても基本的には少しも変わらない。自由と平等、自由と生存は民主的政治秩序に不可欠の前提であり、また民主政治秩序においてのみ自由と平等は権力の濫用からみずからを防衛し、真の生存が確保されるからである。私がかつて、基本的人権を最高の法価値とする近代憲法の根本規範は、実体化された超実定法として、「制憲権が自己の存在を主張するための基本的な前提であり、制憲権の活動を拘束する内在的な制約原理である」と述べた(本書四一━四二頁)趣旨は、そこにある。そうだとすれば、人間人格の自由な発展と尊厳を犯す人権保障規定の変更、および人権の保障にとっての必須の━━その意味では日本国憲法前文のいう「人類普遍の原理」としての━━民主制の原則の変更を憲法改正権によって行なうことは、法理上不可能というほかなかろう。

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憲法制定権力 芦部信喜 1983/1/1 (P100~101) amazon (下線は筆者)

 

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 しかしながら、個人権、その中核的な価値内容を形成する人間人格不可侵の原理は、近代憲法の基本的価値を表示する根本規範である。近代憲法が成文化され、通常の法律と異なる特別の法的地位と権威が認められる根拠は、先にも述べたが、かように憲法が自由の法、自由の技術としての使命をもって生まれたところに存する。だからこそ、ショイナーがいみじくも語ったように、憲法の本質は「その形式および高められた法的位階(ランク)によって決定されるのではなく、その内容および課題によって決定される」のである。いいかえれば、憲法は国家権力を制限し、自由な人間による自由な社会の価値、社会国家的要素によって補完された民主法治国家の法の理念を維持し実現する規範の体系であり、市民の自由の保証人である。これをも否認しうる制憲権の存在を認めることは、制憲権を近代憲法に通ずる普遍の政治原理として妥当せしめる根本規範━━したがってまた憲法そのもの━━の存在すら否認しうることを容認することになろう。

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憲法制定権力 芦部信喜 1983/1/1 (P39~40) (下線は筆者)