教育関係 改憲案 法的分析等



 教育関係について、いくつかの改憲案を見てみよう。


 その前に、現行憲法26条を見ておこう。

日本国憲法
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〔教育を受ける権利と受けさせる義務〕
第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
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<理解の補強>


教育の無償化と憲法改正 2018年4月12日





元文部科学事務次官 前川喜平 改憲案


情報①
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第26条 すべての個人は、法律の定めるところにより、その個性に応じてひとしく、ともに教育を受ける権利を有する。
2 国は、すべての個人に、無償の普通教育の機会を保障する義務を負う。
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「国家優先」に覆われた自民党改憲案は危険だ 前川喜平氏が指摘する「26条改正案」の問題点 2018年05月24日


情報②
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第26条 すべての人は(何人も)国籍を問わず、法律の定めるところにより、その個性と能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 国は、すべての人に無償の普通教育の機会を保障する義務を負う。
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前文部科学事務次官 前川喜平さん講演会 憲法とわたし 2018.4.17

(動画は57分頃より改憲案の話)



【改憲案に含ませた意図(前川喜平講演より)】

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> 国民だけでなく、すべての人に国籍を問わず教育を受ける権利があるべき。

> 「能力」は誤解を生むので、「個性」を加えた方がいい。

> 現行憲法26条2項の「その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。」に関しては、教育基本法(筆者注:5条)にほぼ同じことが書いてある。憲法は国民の人権を保障するためのもの。「憲法の三大義務」などと言うことがあるが、大々的に言うような性質のものではない。憲法に「国民の義務」を盛り込む必要はない。憲法には「国民の権利」を書くべきであり、「国民の義務」については法律で書けばいい

> 「義務教育」という言葉は誤解を生む。現行憲法26条2項については、文の構造から変え、「国民の義務」ではなく、「国が教育の機会を保障する義務」を書くべき。

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 当サイトは教育について詳しくないが、いくつかの政党などが発表している改憲案よりは、遥かに憲法的な発想が押さえられており、人権保障の本質的な視点が感じられ、美しい。


〇 97条の人類的な視野に基礎を置く人権観や、13条の「個人の尊厳(個人の尊重)」という憲法の最高価値を踏まえており、憲法上の作法から見ても完成度が高いと感じられる。


〇 シンプルで分かりやすく、規律密度に関しても、妥当性が高い。


〇 憲法の体系性や国民と国(統治機関)との関係に関しても深い理解を持っており、スマートである。


〇 法体系全般に対する整合性もあると考えられる。

〇 憲法の解釈論的な視点だけでなく、立法論的な視点としても堪え得ると考えられる。

〇 この改憲案は全体として憲法学の本質を弁えていると言えるのではないだろうか。

 


 全体として完成度が高いので、これは「改正」の名に値する改憲案と言えるのかもしれない。今まで見てきた雑な案とは一線を画するものが感じられる。


 憲法に国民の義務を書き込むことは、あたかも権利と義務が対価関係にあり、義務を果たせない人を切り捨てる発想に繋がりやすく、誤解を生じてしまうとの指摘は、憲法原理の発想から見ても妥当性が高い。

 第三章「国民の権利及び義務」の【人権規定】の章に、改憲案26条2項の「国の義務」について書き込むことに疑問を感じる人もいるかもしれないが、既に現行憲法13条や25条2項に「国の義務」について書き込まれているため、問題ないと考えられる。

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〔個人の尊重と公共の福祉〕
第13条すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕
第25条すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
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 書籍「憲法の真髄」にて、憲法の国民主権の理念を実現させるためには、主権者である国民を育てることについて憲法上で「義務」と表現することには意味があるというような趣旨が書かれていたように思う。

 勤労と納税についても国の制度を成り立たせるためには義務としなければならないとのことである。

 この改憲案の見方とはやや違うと思われる。


   【参考】Ⅴ 憲法における義務規定 PDF


 憲法中の3つの義務について、書籍「憲法問答」のP39~42が割と詳しい。

 憲法学者「木村草太」は「教育を受けさせる義務」を「親の思想、信条、信教の自由を解除するもの」として位置付けている。アメリカの「キリスト教原理主義の親が『進化論を教える学校に行かせない』という選択をすることがある」という事例を挙げ、それを防ぐ効果があると考えるようである。

 その他、「公共の福祉」による制約との違いについても述べられている。

 



 


 ただ、当サイトは教育についてこれ以上の分析ができないので、教育に関して詳しい人に、詳細な分析をお願いしたい。



 お読みいただきありがとうございました。


<参考>

教育基本法
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第二章 教育の実施に関する基本

(義務教育)
第五条 国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。
2 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。
3 国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。

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<理解の補強>


【動画】自民党が改憲で目指す家族国家観の危険性!「純血日本人主義」「血の共同体」がファシズム・排外主義の根拠に!? 岩上安身による 前・文科事務次官 前川喜平氏 インタビュー第3弾 2018.3.29
(動画は、ハイライト 7分38秒頃より教育の改憲について)


追加文言、不要で危険 連続視標「自民改憲条文案」4回続きの(2)教育充実 2018年3月25日
学ぶ権利、国籍の壁 外国人増、就学支援急務 2018年5月4日
学ぶ権利、国籍の壁 適用解釈は可能 小貫大輔・東海大教授(国際学)の話 2018年5月4日

前川前次官の証人尋問認めず 2018年5月10日

「国家優先」に覆われた自民党改憲案は危険だ 前川喜平氏が指摘する「26条改正案」の問題点 2018年05月24日

前川喜平講演会「憲法と教育を語る」~安倍政権の危険性~ 2019-02-20

前川喜平さんの講演会 300人を超え 2019/6/15



自民党 改憲案


自民党案は、26条の1項と2項は維持し、3項を加憲する案である。


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第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
3 国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない。

第89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

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「改憲4項目」条文素案全文 2018.3.25

 

 

 教育の無償化について、無償化ではなく、「26条に3項を新設し、教育負担を軽減する努力目標を国に課す案」が報道されている。


 この努力目標の案について、当サイトが強調している「法の体系」や「法技術的な問題」はあまりないと思われる。政策論や積極的な改正の必要性があるかどうかの程度などについては議論があってもいいと思われる。


 この案は25条2項の「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」の規定に近いものとなることが想定される。法律規定を整備する段階で、その趣旨が取り込まれると考えられるため、国民の人権保障の質も高まるのではないだろうか。

 

 

 「国の未来を切り拓く上で」という文言が含まれているが、日本国憲法に記載された「国」の法的な意味は、【統治権】(「立法権」「行政権」「司法権」〔+地方自治(行政権に含む学説もある)〕)のことである。日常用語や政治用語としての、「領土、領海、領空」や「文化圏、共同体意識、国民性」などを直接示す意味を持っていないのである。下記で確認してほしい。


日本国」理解する参考例
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日本国の象徴であり(1条)

国事に関する行為のみを行ひ、(4条1項)

国政に関する権能を有しない。(4条1項)
その国事に関する行為を委任(4条2項)
天皇の名でその国事に関する行為を(5条)
左の国事に関する行為を(7条)
の交戦権は、これを認めない。(9条2項)

立法その他の国政の上で、13条
は、すべての生活部面について、(25条2項)
又は公共団体に、その賠償を(17条)
から特権を受け、(20条)
でこれを附する。(37条)
にその補償を求めることができる。(40条)
の最高機関であつて、の唯一の立法機関である。(41条)
に緊急の必要があるときは、(54条)

各々国政に関する調査を行ひ、(62条)
の財政を処理する権限は、(83条)
の収入支出の決算は、(90条1項)
の財政状況について(91条)
の最高法規であつて、(98条1項)

日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、(98条2項)
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 これにより、「国の未来を切り拓く上で」との意味は、「『統治権』の未来を切り拓く」という意味となるのである。統治権は概念上の『権限』でしかないので、未来を切り開く対象とはならないのである。意味不明である。


 ただ、「国は、…努めなければならない。」という文全体に渡る意味で出てきている「国」の文言については、統治権を意味しており、憲法上の整合性に問題はないと思われる。



 ただ、「何が教育に当たるのか」、「税金を投入してまで支援するような教育を行っているのか」など、『憲法上保護に値する教育とは何か』という議論も湧き起こるのではないだろうか。26条2項では「義務教育は、これを無償とする。」とあるが、義務教育ではないレゴ教育やサッカー教室、学習塾などは加憲案の「教育」に入るのだろうか。国民が権利救済を求めた場合、認定行為の政策論上の「教育」の定義がどのような範囲となるのかかなり議論が必要となる気もする。税金が投入されることから、救済を求める本人だけでなく、一般国民にも高い関心を集める問題であると思われる。当サイトは教育に関するそれ以上の詳しい内容については分からないので、詳しい人に分析をお願いしたい。「教育って、一体何なんですか。」



 追記:教育について詳しいサイトを見つけました。


全体像を見る知能がない安倍政権の最悪にナンセンスな改憲談義 by 藤原敏史・監督 2018年2月3日

【講演会動画あり】自民改憲案に警鐘 そのポイントは? 木村草太教授が沖縄で語る 2018年3月28日
(動画は52分頃から教育無償化について)

【詳しい】緊急意見書 「安倍改憲は戦争への道」 自民党改憲素案を批判する 2018年4月12日 PDF

緊急意見書 「安倍改憲は戦争への道」 自民党改憲素案を批判する


 当サイトは教育について詳しく分析する力がありません。詳しくは、詳しい人のサイトでご確認ください。お読みいただきありがとうございました。


<理解の補強>


自民の憲法改正原案、「教育無償」明記しない方向で検討 2017年11月25日

憲法改正案「教育無償」明記せず…自民方針 2017年11月25日
教育無償化明記せず 自民改憲本部が方針 2017/11/28

「教育無償」明記見送り 財源確保見込めず 2017年11月28日
自民 憲法改正推進本部 教育の「無償化」明記せず、24年党改憲草案ベースに条文検討へ 2017.11.28
自民改憲案たたき台、教育「無償」明記せず 財源確保、懸念根強く 2017/11/28
【改憲】自民、教育めぐる改憲条文案協議 2018.2.20
憲法改正、教育無償化で自民は「財源確保」と「維新」の狭間で苦慮 2018.2.20
「教育無償化」玉虫色 条文案に明記せず 2018年2月22日
教育無償化の努力義務盛った条文素案議論 自民改憲本部 2018年2月20日
[自民教育改憲案] 一体、何がしたいのか 2018/2/23
「教育充実」の自民改憲案 あらわになった自己矛盾 2018年2月24日

<社説>自民党改憲条文案 教育拡充は口実にすぎず 2018年2月24日

憲法に財政健全化を規定すべき 教育無償化から見えるポピュリズム 2018年02月24日

 

自民改憲案、教育部分の表現修正=「差別されない」、訴訟懸念で外す 2018年02月28日
自民教育改憲案 政治の道具にするな 2018年3月16日

緊急意見書 「安倍改憲」は戦争への道 ―― 自民党改憲素案を批判する 2018年4月12日 PDF

「教育の充実」に改憲は必要ない 法律と予算で実現できる 2021/12/02

【壊憲・改憲ウォッチ(3)】「教育無償化(充実化)」「合区解消」について 2022年3月2日

【動画】伊藤真弁護士の「考えよう!自民党改憲4項目」 批判的考察 Part 3 2022/04/22





希望の党 改憲案


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第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力及び個性に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有し、社会的身分又は経済的地位によつて差別されない。
② 国は、教育が人格の形成及び主権者として必要とされる資質の涵養に欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない。 
③ すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子どもにすべての国民にとつて共通に必要とされる一般的かつ基礎的な教育を受けさせる義務を負う。
④ 幼児期の教育から初等教育、中等教育に至るまでの公の性質を有する教育は、法律の定めるところにより、無償とする。高等教育については、法律の定めるところにより、能力及び個性に応じて、すべての国民に対してこれを利用する機会が確保されるものとする。


第83条 

② 国の財政の健全性は、現在及び将来の国民のために、収支の均衡を基本とし、確保されなければならない。


第89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

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憲法改正による幼児教育から高校までの無償化を提案する 2018-02-27

憲法26条(教育を受ける権利)の制定過程を振り返る 2018年02月26日

憲法改正による幼児教育から高校までの無償化を提案する  2018年02月27日


 当サイト筆者は教育について詳しくないが、それでも特にこの改憲案の4項は気になる点がある。まず、「幼児期の教育」「初等教育」「中等教育」「高等教育」などという区分自体が、法律によって今のところそのように制度設計されているだけのものである。中高一貫の学校があったり、小学校から大学まで一つの学校で運営されているものもある。外国では日本のような小学校6年、中学校3年、高校3年、大学約4年などという年数の枠組みが全く違っている。根拠がフィクションで申し訳ないが、時々海外ドラマで出てくる主人公は、7年生とか8年生とかの設定であったりする。ハリーポッターのホグワーツ魔法魔術学校は確か10歳ぐらいから入学して7年制の学校だったように思う。この「幼小中高」という枠組み自体は法律によって柔軟に変更できるものとした方が、教育の質が変わった際に時代に柔軟に対応できるだろう。AIの進化によって、教育内容も変わり、人間に最適な学校制度の在り方が幼児期5年、小学校4年、中学校4年、高校4年であると後に分かることもあると思われる。そもそも、そのような枠組み自体を教育機関の理念や運営によって変更できる制度を導入する可能性もあるだろう。病気や特殊な仕事によって高校に行く機会がなかった人も、後から高校や高校に類似した学校に入ったり、生涯学習の視野で定年を過ぎてから大学に通う人もいるものと思われる。憲法の条文についても法律のように細かく区分を書き込むことは、国の制度設計の柔軟性を損なうために妥当でないように思われる。


 また、26条2項の「義務教育は、これを無償とする。」という強行規定がなくなり、改憲案4項は「法律の定めるところにより、無償とする。」に変わっていることは、法律によって無償化しない部分も開かれてしまうことを意味する。これは『
法律の留保型人権保障』に近いものであり、明治憲法中では特に人権保障の質の低さを示す良い例となっている。これでは無償化の質が現在よりも下がってしまうのである。そもそも法律によって無償とするならば、憲法に書き込む必要がない。


 柔軟に変更しうる政策の部分と、安定的な秩序形成のための人権保障のための法の根本部分との切り分けを曖昧にしていく姿勢は、他の人権条項をも政治化、政策化させてしまう事態を招きやすい。これは危険な議論である。憲法を単なる上位規範として君臨していることを利用して、政党の政策目的を達成する手段にしようとすることは避けるべきだろう。法律が安易に変更されやすい政治状況において、憲法化すればいいと感じてしまう人もいるのかもしれないが、本来的には法律が重く扱われていないことが問題であり、憲法という規範の重さだけを活用しようとすることは憲法の存立根拠としての人権保障機能、違憲立法を是正する機能、人権保障のための法と政策形成のための法との線引きによって国家全体に普及させる法秩序そのものの安定的な魅力を維持することによって秩序形成を行う機能を損なうこととなる。このような改憲がなされることは、憲法それ自身の権威性の重みを低下させ、人権保障の質を下げる恐れが大きい。憲法が法律と比べて相対的に高い位置にあり、重く扱われていることだけを根拠として規定の格上げを行おうとしても、憲法の権威性の存立根拠の本質部分を理解しなければ、憲法の質自体を落としてしまいかねない。(この議論は、一般に自由や権利を認めすぎると、自由や権利全体の価値が下がってしまうため、重要な自由や権利についてまで価値が下がってしまい、十分な権利保障を確保できなくなるという『人権のインフレ化』の害悪についての議論にも非常に近いものがある。)
恐らく、このような改憲を提案する者は、憲法の「形式的最高法規性」しか見ておらず、「実質的最高法規性」を理解していないと思われる。憲法という法秩序が君臨していることは理解しているが、なぜ君臨しているのかを理解していないのである。ブランドに価値があることは理解しているが、ブランドをつくる力はないのである。ブランドに頼るばかりの消費者の視野であり、ブランドそのものを生み出すクリエーターやデザイナーの視野が浅いのである。確固として君臨しているように見える憲法も、実はその存立根拠が極めて壊れやすく危ういものであることに対する十分な認識を持つべきだろう。



 その点、同党の主張として上記とは逆のような気もするが、「改憲の『内容』とともに『目的』は極めて重要」と考え、「数の力に任せて権力濫用に陥りがちな政権下での憲法改正議論に、権力抑制の判断基準が不可欠」であるとして、「憲法改正の要否の判断準則」や「憲法改正の判断基準」を求めようとすることは非常に意義があると考えられる。法の存立根拠それ自体を守ろうとする『実質的最高法規性』の在り方を理解しており、憲法保障の観点からも非常に好ましい。これは、法の効力の存立根拠それ自体を守ることに繋がることから、実質的最高法規としての安定性が向上し、人権保障の質も向上すると考えられる。



安倍総理の9条改憲案で憲法学者は沈黙するのか 2018年02月27日

日本国憲法:その特異な歩みと構造 2017.08.31

 


 雑な文でした。お読みいただきありがとうございました。