構造的曖昧文の克服



 日本語の文法問題として、文の内容に「構造的な曖昧性」が存在すると、人によってその文から読み取る意味が変わってしまうことがある。


 参考に「頭が赤い魚を食べた猫」と「バルコニーに立っていた女優の召使」の文構造の曖昧性の問題を考える。

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「頭が赤い魚を食べた猫

① 「頭が赤い 魚を食べた 猫」
② 「頭が赤い魚 を食べた猫」
③ 「頭が 赤い魚 を食べた猫」

(省略された主語が人であるという前提で読む場合)
④ あの人、「頭が赤い 魚を食べた 猫」になっている。
➄ あの人、「頭が赤い魚 を食べた猫」になっている。

⑥ あの人、「頭が 赤い魚 を食べた猫」になっている。

頭が赤い魚を食べた猫 Twitter
頭が赤い魚を食べた猫 2013年9月22日
4番目と5番目がむずかしい…日本語って奥深いわぁ〜… 2018年8月20日

【第77回】「頭が赤い魚を食べた猫」が面白い

部分的に黒い猫と赤い魚を食べた猫(多義文の話) 2019-12-08

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「バルコニーに立っていた女優の召使」


① バルコニーに立っていた「女優の召使」  ……  バルコニーにいるのは召使

② 「バルコニーに立っていた女優」の召使  ……  バルコニーにいるのは女優


構造的曖昧性のある日本語の関係節構文を対象にした文処理研究

日本語における関係節の構造的曖昧構文の処理について : 事象関連電位を用いた検証

関係節付加曖昧構文の処理への語順の影響

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「みにくいあひるの子」


① みにくい「あひるの子」

② 「みにくいあひる」の子


「かっこいいサカイ先生の自転車」


① かっこいい「サカイ先生の自転車」
② 「かっこいいサカイ先生」の自転車

 

【動画】酒井邦嘉「脳はどのように言葉を生み出すか」ー高校生のための東京大学オープンキャンパス2015 模擬講義 2017/01/31

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 法律の条文や、法学の論文などの文章の中で「文の構造的な曖昧性」が含まれていると、その文の読み方から
様々な学説の広がりを生み出してしまうことがある。

 また、裁判所の「判例」や政府の「答弁」を読み取る際にも、その一文だけでは文の「構造的なまとまり」を正確に認識できないことがある。すると、他の用例や事例を知っている者と、それを知らない者との間では、その文から読み取る意味が変わってしまい(異なってしまい)、正確な意思疎通ができなくなったり、議論がかみ合わなくなったりすることがある。注意が必要である。

 法律の文章を書く際は、このような「構造的な曖昧性」を含む文となることを避ける必要がある。

 当サイトでは読み手が誤った理解をしてしまうことを防ぐために、「色付け」や「鍵括弧」を使い、「文の構造的なまとまり」を分かりやすくしようと試みている。




 政府の2014年7月1日閣議決定は、1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と名付けた部分の「文の構造的な曖昧性」を利用することで、その規範の枠組みの中に「存立危機事態」での「武力の行使」が当てはまると強弁しようとするものとなっている。

 しかし、前後の文意を丁寧に読み解き、その当時の他の答弁書との整合性を検討すれば、1972年(昭和47年)政府見解の文構造の枠組みは明らかであり、この中に「存立危機事態」での「武力の行使」は当てはまらない。





「自衛」に付加する言葉

 

自衛  
自衛 + 権利(国際法上の権利) 自衛権

自衛 + 権利(国際法上の権利) + 行使

自衛権の行使

自衛権行使

自衛 + 措置

自衛のための措置

自衛の措置

自衛措置

自衛 + 行動 自衛行動
自衛 + 行動 + 権限(憲法上の権力・権限・権能) 自衛行動権
自衛 + 戦争

自衛のための戦争

自衛戦争





「自衛のための必要最小限度の実力」の分割可能性


 「自衛のための必要最小限度の実力」と表現される時、これだけの情報では、意味を読み取る際にどこに文の区切りを見出すべきなのか判断することができない。

A 「自衛のための必要最小限度の実力」

B 「自衛のための必要最小限度」の実力
C 「自衛のための」 「必要最小限度の実力」

D 「自衛のための」 「必要最小限度の」 「実力」

 


 「必要最小限度」の意味についても、「必要」と「最小限度」で分割できる意味を持っているのか判断できない。


A 「必要最小限度」で一つのまとまりと考える

B 「必要」性 + 「最小限度」性 に分解できると考える




自衛のための必要最小限度の実力の行使」の構造的曖昧性

 「自衛のための必要最小限度の実力の行使」という文言が使われる際、文の構造が曖昧となり、意味が不明確となりやすいため注意する必要がある。


   【同じもの】

◇ 「自衛のための必要最小限度」
◇ 「我が国を防衛するため必要最小限度」

〇 「自衛のための必要最小限度の実力」

〇 「自衛のための必要最小限度の実力組織」

〇 「自衛のため必要最小限度の防衛力」(昭和30年6月16日

〇 「自衛力」

〇 「我が国を防衛するために必要最小限度の実力」(平成8年4月23日


△ 「自衛のための必要最小限度の実力行使」

△ 「自衛のための必要最小限度の実力の行使」

△ 「自衛力の行使」

△ 「我が国を防衛するための必要最小限度の武力行使」

 

 政府答弁で使われている「実力」の意味は、「物理的な有形力」を指している場合と、「実力組織」を指している場合があると考えられる。
 そのため、「実力の行使」と表現した場合、「物理的な有形力」を行使する意味なのか、「実力組織」を行使する意味なのかを十分に特定することができない。



 「自衛のための必要最小限度の実力の行使」という言葉が使われる際、下記のどちらの意味を指しているのか明確でない場合がある。


◇ 「自衛のための必要最小限度」と「実力の行使」で区切り、「実力の行使」の意味を「物理的な有形力の行使」と考えて、「三要件(旧)の基準を満たす『物理的な有形力の行使』」の意味で読む


 ⇒ 「自衛のための必要最小限度(三要件〔旧〕)」の「実力の行使」 = 物理的な有形力の行使


◇ 「自衛のための必要最小限度の実力」と「行使」で区切り、「実力組織(自衛力)を行使」の意味で読む


 ⇒ 「自衛のための必要最小限度の実力(自衛力)」の行使 = 実力組織の行使


 これは、「実力」という用語が、「物理的な有形力の行使」を指しているのか、「実力組織」を指しているのか特定できないことにより、文に構造的な曖昧性が存在することが原因である。
 この点は、政府自身もはっきりと概念を整理して示すことができていないために、論者によって概念の枠組みを思い描く際に認識のズレが生じることになるため、注意して使用するべき言葉である。


 ただ、「自衛のための必要最小限度の実力」を省略して「自衛力」と表現する場合、それは「戦力」や「警察力」と区別された「実力組織」のことを指している。

 そのため、省略せずに単に「自衛のための必要最小限度の実力」とだけ表現されている場合には、「実力組織」と考えてよい。

 下記は、保持できる実力組織について「自衛のための必要最小限度の実力」を鍵括弧を付けて表現している場合の答弁書である。


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 憲法第九条の下で保持することが許容される「自衛のための必要最小限度の実力」の具体的な限度については、本来、そのときどきの国際情勢や科学技術等の諸条件によって左右される相対的な面を有することは否定し得えず、結局は、毎年度の予算等の審議を通じて、国民の代表である国会において判断されるほかないと考える。

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内閣法制局の権限と自衛権についての解釈に関する質問に対する答弁書 平成15年7月15日

 

 


 下記の答弁も参考に考える。

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○味村政府委員

(略)
 政府といたしましては、憲法第九条は独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではございませんで、自衛のための必要最小限度の武力を行使することは憲法九条のもとにおいても認められておりますし、また、自衛のための必要最小限度の実力の保持は同条によって禁止されていないという見解を、これは従来からとってきているところでございます。
(略)
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第107回国会 衆議院 内閣委員会 第6号 昭和61年11月20日

A 「自衛のための必要最小限度の武力を行使すること」

 ⇒ 「自衛のための必要最小限度」の範囲での「武力の行使」のこと

 ⇒ 「自衛のための必要最小限度」の範囲の「武力組織」を行使すること


B 「自衛のための必要最小限度の実力の保持」

 ⇒ 「自衛のための必要最小限度の実力」で区切り、「自衛力」を保持する意味

 ⇒ 「自衛のための必要最小限度」の「実力」で区切り、三要件(旧)の範囲内の「実力組織」を保持する意味

 



   【意味の解読】

「自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきもの」(平成14年5月7日

  ⇒ 国際法上の「自衛権の行使」としての「武力の行使」は、旧三要件の基準の範囲にとどまるべきもの


「海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」平成14年5月7日

  ⇒ 「海外派兵」は、一般に旧三要件の基準を超えるもの


「自衛のための必要最小限度の実力を保有し行使することは認めていると考えておる」平成16年1月26日
  ⇒ 「実力組織(自衛力)」を保有し、それを行使することができる。

「自衛のための必要最小限度の実力の行使につきまして、いわゆる三要件を申しております。」(平成16年1月26日

  ⇒ 「自衛のための必要最小限度」の「実力の行使」の意味は、旧三要件の基準である。

  ⇒ 「実力組織(自衛力)」の行使について、旧三要件を満たす必要がある。


 上記に挙げている「自衛のための必要最小限度の実力を保有し行使することは認めていると考えておる(平成16年1月26日)」との答弁からは、「実力組織(自衛力)」を保有することを示した上で、それを行使する場合を示していると読むことができる。


 しかし、同じく上記に挙げている「自衛のための必要最小限度の実力の行使につきまして、いわゆる三要件を申しております。(平成16年1月26日)」との答弁からは、①「武力の行使」の範囲について、三要件を申しているのか、②「実力組織(自衛力)の行使」について三要件を申しているのか、特定できない。

 ただ、いずれにせよ、「自衛のための必要最小限度の実力(自衛力)」についても、もともと三要件(旧)に縛られた範囲内で活動が許された実力組織であるから、その「実力組織(自衛力)の行使」にあたっては、結局三要件(旧)を満たさなければならないことは確かである。


 「自衛のための必要最小限度」の文言の使用例について、詳しくは当サイト「自衛のための必要最小限度」で記載している。





「実力」の意味の曖昧性

 「実力」の文言が用いられる場合、下記の二つのどちらの意味を指すのか明確でない。

① 「物理的な有形力の行使」の意味

② 「実力組織」の意味(9条2項前段が禁じる『陸海空軍その他の戦力』〔組織〕と区別するため)


 「実力の行使」と表現した場合、①「物理的な有形力の行使」を意味するのか、②「実力組織の行使」を意味するのか不明確となる。

 政府が「実力」の文言を用いる場合、①「物理的な有形力の行使」を意味する場合と、②「組織」を意味する場合の、両者の意味が混じって使われている場合があるため注意する必要がある。



 「武力の行使」の意味を①「物理的な有形力の行使」を指すと考えるとする。そして、9条1項を「武力行使全面放棄説」と考え、その9条1項の禁じる「武力の行使」に抵触しないことを明らかにするために「実力の行使」という文言を用いていると考えるとする。

 すると、2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触しないために用いている「自衛のための必要最小限度の実力(自衛力)」という「組織」についても、同様に「実力」の文言を用いていることになる。

 すると、同じ「実力」という文言を用いているのに、1項に抵触しないために用いた①の「物理的な有形力の行使」の意味と、2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触しないために用いた②の「組織」の意味で競合している可能性が出てくる。

 そうなれば、1項の「武力の行使」の意味についても、「物理的な有形力の行使」を意味するわけではなく、「武力(組織)」を意味すると考え、その1項の禁じる「武力の行使」に抵触しないために「実力の行使」という文言を用いている部分については、「実力(組織)」を意味すると考える解釈が考えられる。

 しかし、9条1項では「戦争」と並列する形で「武力による威嚇又は武力の行使」の文言が用いられており、「戦争」の意味が「組織」を意味しない以上、「武力の行使」の意味も「組織」の意味ではないと考えることが妥当であるように思われる。

 また、政府も「武力の行使」の意味を「国家の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為」と定義しており、「組織」の意味を込めて用いていないように思われる。



 他にも、もし「武力」の意味が「組織」を意味している場合、1項で「武力(組織)」を禁じ、2項前段で「戦力(組織)」を禁じていることになる。

 しかし、「武力(組織)」と「戦力(組織)」は禁じられるが「実力(組織)」は禁じられていないと考えることが妥当な解釈であるようには思われない。

 

 


 政府は「実力」と「武力」はほぼ同意義で使われていると答弁している。

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○岡田委員 
(略)
 従来の集団的自衛権の定義、もう時間もありませんので法制局の今までの定義を申し上げますと、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利だ、そういうふうに述べられていると思います。ここで言う実力をもって阻止する権利というときの実力というものは一体何なのか武力行使というふうに考えていいのか。あるいは、武力行使武力の威嚇よりももっと広い概念なのか。そこのところ、長官、いかがでしょうか。


○大森政府委員 この集団的自衛権の定義の中で触れられていますように、攻撃に対してこれを実力でもって阻止するという関連で実力という言葉が用いられているわけでございますから、武力攻撃を阻止するという観点から見ますと、武力をもってというのとほぼ同意義で使われている用語であろうというふうには理解しております。
 ただ、問題は、武力による威嚇とか、あるいはそれ以外の支援行為はこれとは関係ないじゃないかというところまでおっしゃるかどうかの問題があるわけですけれども、それは、また次の問題にいたしたいと思います。
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第142回国会 衆議院 予算委員会 第27号 平成10年3月18日



 下記は政府答弁ではないが、「武力」と「戦力」の違いを捉える説で解説しているもの。

 
第13回国会 両院法規委員会 第4号 昭和27年3月14日 (鵜飼信成)
神戸大学理事・副学長(大学院法学研究科・教授)井上典之氏 憲法学者アンケート調査



<理解の補強>

3. 放棄の対象(「戦争」、「武力の行使」及び「武力による威嚇」の意味) PDF





「武力の行使」の構造的曖昧性

 「武力の行使」と記載されている場合、構造的曖昧性を含んでいる場合がある。

・「武力の行使」と全体をまとまりで捉えて「物理的な有形力の行使」を意味すると考える説
・「武力」のみを「物理的な有形力」と考え、それを「行使」することを意味すると考える説

・「武力」を「武力組織」と考えて、それを「行使」する場合に「物理的な有形力の行使」となると考える説


 この辺が曖昧となると、様々な区切り方が生まれて混乱するため、注意が必要である。


・「武力の行使」     ………  憲法9条1項(英文では use of force)

・「武力の行使」を行う  ………  当サイトの表現

・武力行使を行なうこと  ………  1972年(昭和47年)政府見解

・武力行使に際しては   ………  自衛隊法88条2項

・武力を行使すること   ………  自衛隊法88条1項

 

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 お尋ねの自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第八十八条第一項に基づいて「必要な武力を行使すること」は、言葉そのものの意味としては憲法第九条第一項の「武力の行使」に当たるが、憲法第九条で禁止されている「武力の行使」には当たらないと考える。

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衆議院議員金田誠一君提出日本国憲法における国権と自衛権との関係に関する質問に対する答弁書 平成14年3月8日


 当サイトは、憲法9条1項の禁ずる「武力の行使」に抵触するか否かを判別することを重視しているため、9条1項の文言である「武力の行使」をそのまま抜き出す形で表現することが読み手に分かりやすいと考え、「武力の行使」という表現を用いている。

 また、当サイトの「『武力の行使』を行う」との表現の中には、「行使」と「行う」の意味が重複しているのではないかとの指摘を受けそうではあるが、1972年(昭和47年)政府見解でも「武力行使を行なうこと」と表現しているため、それに倣い、問題ないと考えている。

 また、政府解釈によれば「武力の行使」の意味を「国家の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為(平成14年2月5日」と定義しており、「『武力の行使』を行う」という表現は、これを行うことを意味することから問題ないと考えている。

 自衛隊法88条1項のような「武力を行使すること」という表現は、「武力」の文言が「武力組織」を意味するのか否かとの混乱を招くことや、9条1項の「武力の行使」の文言との対応関係を認識しづらい点があるため、当サイトでは採用していない。


 ただ、どの表現を用いても、法学上においてこの論点に関しては9条に抵触するか否かの基準が変わることはないと思われる。



 下記は、長沼事件の第二審判決の資料であるが、PDF上のP82から「 (原裁判等の表示) 」の項目で一審判決と思われる資料が記載されている。

 ここでは、「武力」の文言を「実力の行使を目的とする人的および物的設備の組織体」として「戦力」と同じ意味としている部分と、「武力の行使」を「戦争行為にいたらない事実上の戦闘行為」としている部分があり、なかなか明確に整理しづらいことを述べている。

 

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(3) 「武力による威嚇又は武力の行使」ここにいう「武力」とは、実力の行使を目的とする人的および物的設備の組織体であるか、この意味では、後記第九条第二項にいう「戦力」と同じ意味である。「武力による威嚇」とは、戦争または戦闘行為に訴えることをほのめかしてなされる威嚇であり、「武力の行使」とは、国際法上認められている戦争行為にいたらない事実上の戦闘行為を意味する。

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保安林解除処分取消請求控訴事件 札幌高等裁判所 昭和51年8月5日 (裁判所の資料) (PDF




 「武力の行使」について考える場合、「武器の使用」という概念と対比して語られる場合があることにも注目する必要がある。この辺も考えておくと、より正確な表現は何かを探る手掛かりになるかもしれない。

 

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○津野政府委員 お答えいたします。

 武器の使用武力行使の関係につきましては、御指摘のとおり、平成三年九月にPKO特別委員会の方で、審議の経過で政府の見解が明らかにされているところでございます。

 それで、その内容を申し上げますと、これは文書で提出されておりますので、その文書のとおり読んでみたいと存じますが、

 一般に、憲法第九条第一項の「武力の行使」とは、我が国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいい、法案これは当時はまだ国際平和協力法が法案でございましたので、法案第二十四条の「武器の使用」とは、火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置をその物の本来の用法に従って用いることをいうと解される。第二番目に、

 憲法第九条第一項の「武力の行使」は、「武器の使用」を含む実力の行使に係る概念であるが、「武器の使用」が、すべて同項の禁止する「武力の行使」に当たるとはいえない。例えば、自己又は自己と共に現場に所在する我が国要員の生命又は身体を防衛することは、いわば自己保存のための自然権的権利というべきものであるから、そのために必要な最小限の「武器の使用」は、憲法第九条第一項で禁止された「武力の行使」には当たらない。というのが見解でございます。

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第132回国会 衆議院 外務委員会 第15号 平成7年4月26日

 

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○津野政府委員 お尋ねは、PKO五原則に基づいて停戦の合意がある場合には、たまたま派遣された部隊が戦闘行為に巻き込まれた場合に、部隊として組織的に武器を使用しても、それは、それまで違憲である、憲法の禁ずる武力行使に当たるというようなことを言う必要はないのではないかというようなお尋ねかと存じますけれども、今申し上げましたように、政府の統一的な考え方といたしまして、「武力の行使」とは、我が国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいう」というふうに言っているところでございまして、したがいまして、相手方が個人とか例えば強盗団のような単なる私的な集団である場合には、仮に指揮官の指揮のもとに組織的に武器を使用いたしましても国際的な武力紛争の一環とは言えないと考えられますので、このような場合には憲法の禁ずる武力の行使には当たらないと考えられるわけでございます。

 しかしながら、現実の場面では、相手方がどんな主体であるのか、それを見きわめて指揮をするというのは極めて困難でありまして、そのような場面、すなわち状況によっては武力の行使に当たるかもしれないというような場面では謙抑的であるべきであるということで、そういう考え方から現在の国際平和協力法の第二十四条のような規定になったというふうに理解しているものでございます。

 御指摘のように、停戦の合意が守られている以上は、仮に組織的な武器の使用を行ったといたしましても、相手方が前述のような単なる私的な集団等であるから武力の行使には当たらないと言い切れるかどうかにつきましては、例えば実質的に停戦の合意が崩れていても、我が国に情報が届くのに時間がかかり、撤収等の判断がまだ行われていないうちに戦闘が始まるというような場合がないと言えるかどうか。あるいは紛争当事者以外に国際的な武力紛争に発展するような存在がないと言えるかどうか等の問題がございまして、いやしくも憲法上の問題が生じることがないように慎重な検討が必要であるというふうに考えているわけでございます。

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第132回国会 衆議院 外務委員会 第15号 平成7年4月26日

 

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○茂田政府委員 これは平成三年九月二十七日に出した政府の統一見解をもう一度繰り返すことになりますけれども、憲法第九条第一項で禁じられている武力の行使に関しまして、これは「我が国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいい、」ということでありまして、このPKO法での武器の使用というのは「自己又は自己と共に現場に所在する我が国要員の生命又は身体を防衛すること」という、いわば自己保存のための自然権的権利の行使ということでありますから、そういうことのための武器の使用というのは憲法第九条第一項で禁止されている武力の行使には当たらない、ここに保証があるというふうに考えております。

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第142回国会 衆議院 安全保障委員会 第7号 平成10年5月7日

 

第153回国会 衆議院 安全保障委員会 第4号 平成13年11月27日

第157回国会 参議院 国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会 第5号 平成15年10月9日


自衛隊員の武器の使用に関する質問に対する答弁書 平成27年7月17日
3. 放棄の対象(「戦争」、「武力の行使」及び「武力による威嚇」の意味) PDF

 

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○三木内閣総理大臣 

……(略)……

  (二) 自衛隊法上の「武器」については、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」であると解している。なお、本来的に、火器等をとう載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段としての物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなものは、右の武器に当たると考える。

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第77回国会 衆議院 予算委員会 第18号 昭和51年2月27日


第119回国会 衆議院 国際連合平和協力に関する特別委員会 第3号 平成2年10月25日


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2)自衛隊法上の「武器」については、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は、武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」であると解している。なお、本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなものは、右の「武器」に当たると考える。

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(2)武器の定義 平成26年版 防衛白書

 




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○政府特別補佐人(秋山收君) 

(略)

 したがいまして、九条との関係で、戦闘行為とは、「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。」、それから、国際的な武力紛争とは、国又は国に準ずる組織との間において生ずる武力を用いた争いをいうものと考えているところでございます。

(略)

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第156回国会 参議院 外交防衛委員会 第15号 平成15年7月10日





「存立危機事態」の要件の文構造の曖昧性

 「存立危機事態」の要件であるが、政府答弁などによる本来の意味は、


 「『我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、』 + これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」

である。
 しかし、

「『我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される』 + 明白な危険がある事態」


と読んだ場合、未だ「他国に対する武力攻撃」さえも発生していない段階で「武力の行使」を行うことができることとなってしまう。

 

 (いずれの読み方にせよ『存立危機事態』での『武力の行使』は9条に抵触して違憲であるが。)

 このような構造的曖昧性を含む文章は、その文そのものを見ても意味を確定できないため注意が必要である。





「構造的曖昧文」となることを避けるべき

 法律用語の構造的曖昧文による混乱を防ぐ必要がある。判例や政府答弁などについても、「色付け」や「鍵括弧」を用いるなどして、学習者が誤った理解をしてしまうことがないように調整していく必要があると考える。



<理解の補強>

文の意味的曖昧性が構造的曖昧性の解消と保留に及ぼす影響

文の意味的曖昧性が構造的曖昧性の解消と保留に及ぼす影響 (2)

法の日本語 大橋將 2010







用語を統一するべきもの

 政府は同じ意味を指すにもかかわらず、様々な用語を用いていることがある。これらを同一の概念であるか否かを特定することは、慣れないと難しい。そのため、初学者には混乱を与えることとなる。

 混乱を与えないように統一して使用するべきものと考えられる。


 下記では、「自衛のための必要最小限度」と、三要件の第三要件の「必要最小限度」の使用例を検討する。


━━━━━【自衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
① 我が国に対する急迫不正の侵害があること

② これを排除するために他の適当な手段がないこと
③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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自衛のための必要最小限度

〇 「自衛のための必要最小限度」

 

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○国務大臣(伊東正義君) 私も使ったことがありますからお答えを申し上げます。

 専守防衛というのは、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使すると、こういう意味だと思うわけでございまして、これは受動的な防衛戦略の姿勢と、こう言ったらいいと思うのでございますが、その防衛力の行使の態様も自衛のための必要最小限度にとどめる。また、これを保持する防衛力も自衛のための必要最小限度のものだということで私は使っておるわけでございまして、あくまでこれは受動的な防衛戦略だ、相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力の行使をするのだと、こういう行使の仕方、態様、こういうものをいわゆる専守防衛だというふうに解して私は用語を使っております。

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第94回国会 参議院 予算委員会 第13号 昭和56年3月19日


〇 「自衛のための必要最小限」 ⇒ 「度」がない

 

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 「専守防衛」という用語は、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものであり、我が国の防衛の基本的な方針である。この用語は、国会における議論の中で累次用いられてきたものと承知している。

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内閣法制局の権限と自衛権についての解釈に関する質問に対する答弁書 平成15年7月15日

 

 同じく専守防衛の意味について、「自衛のための必要最小限度」と「度」を付けて説明している場合もある。


第208回国会 参議院 予算委員会 第6号 令和4年3月2日


〇 「自衛のため必要最小限度」 ⇒ 「の」がない

 

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○政府委員(角田禮次郎君) 軍事大国という言葉は、もう専守防衛以上に政治的と申しますか、非法律的な用語でございますから、私はとても定義はできませんが、あえて申し上げれば、憲法の九条というものでわが国は自衛のため必要最小限度の武力行使しかしないし、またそれに相応する必要最小限度の実力の保持しかできないのだと、そういうことが憲法九条の解釈として言われておりますから、それと相反するような防衛力を持つというようなのが、恐らく軍事大国という意味で使われているのだろうと思います。

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第94回国会 参議院 予算委員会 第13号 昭和56年3月19日


〇 「自衛のため必要な最小限度」 ⇒ 「の」がなく、「な」がある


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○政府委員(吉國一郎君)

(略)

 ところで、政府は、昭和二十九年十二月以来は、憲法第九条第二項の戦力の定義といたしまして、自衛のため必要な最小限度を越えるものという先ほどの趣旨の答弁を申し上げて、近代戦争遂行能力という言い方をやめております。……(略)……

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第70回国会 参議院 予算委員会 第5号 昭和47年11月13日


〇 「自衛のために必要最小限度」 ⇒ 「の」でなく、「に」である


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○政府委員(塩田章君) お尋ねの趣旨、実は私必ずしもよくわからない点があるのでございますが、保持する防衛力は自衛のために必要最小限度のものでなければならないというのは、質もそういう含んでの考え方かということでございますが、二面から言えるかと思いますが、一面は、当然質的にも自衛の範囲を超えるようなものは持てない。他国にもっぱら壊滅的打撃を与えるようなICBMとか長距離爆撃機というようなものは持てないということは、すでにしばしば申し上げてきておるとおりでございます。

 また一方、他の面からの——御質問の趣旨が必ずしもわかりませんので、もう一面から申し上げてみますと、自衛のために必要な最小限度のものを持つという場合のその質は、当然その時代の変化によって科学、軍事技術の進展に応じて質的にも向上を図っていくべきものであるという趣旨のお尋ねであれば、それはそのとおりだと思います。

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第96回国会 参議院 予算委員会 第12号 昭和57年3月20日


〇 「自衛のために必要な限度」 ⇒ 「の」でなく、「に」であり、「最小」が抜けている


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○政府委員(真田秀夫君)

(略)

 それから、交戦権と自衛権の行使との関連につきましては、これは今年の予算委員会でしばしば問題に出たとおりでございまして、憲法上交戦権は持てないのだと書いてございますけれども、自衛のために必要な限度において自衛行動を行なうこと自体は憲法は禁止していないのだというふうに考えておる次第でございます。

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第61回国会 参議院 内閣委員会 第28号 昭和44年7月10日


〇 「自衛のための必要相当限度」 ⇒ 「最小」でなく「相当」である


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○林(修)政府委員 これは最近ということではございませんで、昨年来同じことを申しておりますけれども、戦力という言葉にはいろいろ解釈のしようがあると思います。これは吉田内閣当時においては、いわゆる戦力という言葉を一定水準以上の戦い得る力、つまり近代戦争遂行能力ということにおける戦う力を戦力といったわけでございます。しかし戦力という言葉は別の言葉でも解釈し得るわけであります。いわゆる一切の戦い得る力を戦力というふうにも使い得るわけであります。つまり警察力等を含めての戦い得る力も戦力ということになりますが、ただいまにおいてはこれは自衛のための必要相当限度に限られる、そういうふうにいっておるわけでありまして、あらゆる戦力を用い得るということにはもちろんならないのであります。戦い得る力でも自衛のための必要相当限度の範囲以下のものしか用いられない、かように考えております。

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第24回国会 衆議院 内閣委員会 第26号 昭和31年3月22日


〇 「自衛のため必要相当限度」 ⇒ 「の」がなく、「最小」でなく「相当」である


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政府委員(林修三君) 「陸海空軍その他の戦力」という言葉は、結局「その他の」ということで、陸海空軍を含めまして、戦力を「保持しない」ということにかかっておるものと思います。その戦力という言葉については、潜在戦力というお話しも、いろいろ学説もございますけれども、ここで禁止されているのは、第一項との対比において、自衛のため必要相当限度の範囲における、いわゆる武力というものを禁止するものではない、かように考えております。

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政府委員(林修三君) 戦力という言葉の意味の問題に相なると思います。これにつきましては、従来いわゆる戦力というのは近代戦争を遂行する能力程度に達する以上のものを戦力という考え方もございますが、しかしまた最も素朴に考えると、戦力というのは文字通り戦う力ということでございます。従いましてそういう意味に解釈すれば警察官ももちろんある意味においては戦う力です。第九条第二項は一切そういう戦う力を禁止しているものとは考えられない。従いまして自衛のため必要相当限度の戦う力を保持することを禁止しているということは、一項、二項両項合せて考えられないというのが私たちの考えであります。

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第22回国会 参議院 予算委員会 第23号 昭和30年6月11日



 もう一つ、政府は「自衛のための必要最小限度」と同じ意味で「我が国を防衛するため必要最小限度」という言葉を使うことがある。

     「自衛のための必要最小限度」 = 「我が国を防衛するため必要最小限度」

 

〇 「我が国を防衛するために必要な限度」 ⇒ 「に」があり、「最小」がない

 

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○政府特別補佐人(秋山收君) 先ほどのお答えの中に多分含まれていると存じますが、その場合に、その我が国として行います武力の行使が我が国を防衛するために必要な限度の範囲内のものであれば、それは我が国の個別的自衛権として行使できるということでございます。

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第156回国会 参議院 予算委員会 第11号 平成15年3月14日

 
〇 「わが国を防衛するための必要限度」 ⇒ 平仮名の「わが」で、「の」があり、「最小」がない


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○丸山(昂)政府委員 先ほどから申し上げておりますように、わが国が共同行動いたします場合には、わが国はあくまでも自衛の範囲内において、自衛の限度内において行動するということでございまして、アメリカの部隊が有事の際には核を持つということがあると思いますけれども、わが方は終始一貫をいたしましてわが国の安全を、わが国を防衛するための必要限度内において公海、公空にも及ぶことがあり得るという立場で考えておるわけでございます。

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第75回国会 衆議院 外務委員会内閣委員会科学技術振興対策特別委員会連合審査会 第1号 昭和50年6月16日




三要件の第三要件の「必要最小限度」


〇 「必要最小限度」

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○大森政府委員 ……(略)……
(略)

 しかしながら、冒頭で委員も御指摘になりましたように、これによって我が国が主権国として持つ固有の自衛権までも否定するものではない。したがって、我が国に対し武力攻撃が発生した場合に、これを排除するため必要最小限度の実力を行使すること、及びそのための必要最小限度の実力を保持することまでも禁止しているものではないというふうに解されているところであります。
(略)
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第142回国会 衆議院 予算委員会 第27号 平成10年3月18日

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 我が国がこのような自衛のために行う実力の行使及び保持は、前記のように、一見すると実力の行使及び保持の一切を禁じているようにも見える憲法第九条の文言の下において例外的に認められるものである以上、当該急迫不正の事態排除するため必要であるのみならず、そのための最小限度でもなければならないものであると考える。

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内閣法制局の権限と自衛権についての解釈に関する質問に対する答弁書 平成15年7月15日


〇 「必要最少限度」
 ⇒ 「少」を使っている

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   かりに、海外における武力行動で、自衛権発動の三要件わが国に対する急迫不正な侵害があることこの場合に他に適当な手段がないこと及び必要最少限度の実力行使にとどまるべきことに該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような行動をとることが許されないわけではないと考える。この趣旨は、昭和三一年二月二九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解によつてすでに明らかにされているところである。

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安保条約と防衛問題等に関する質問に対する答弁書 昭和44年4月8日


    【参考】自衛行動の範囲 昭和47年10月14日 PDF


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しかしながら、だからといつて、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであつて、それは、あくまで外国の武力攻撃によつて国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最少限度の範囲にとどまるべきものである。そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行なうことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであつて、したがつて、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。
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集団的自衛権と憲法との関係 参議院決算委員会提出資料 内閣法制局 昭和47年10月14日 PDF (P63)

 (上記は、三要件〔旧〕の第三要件に対応するものではあるが、『自衛の措置』の限界を述べたものである点に注意。)


〇 「必要最小限」 ⇒ 「度」がない


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○政府委員(秋山收君) 憲法第九条のもとに認められております自衛行動と申しますのは、繰り返しになりますが、いわゆる自衛力発動の三要件具体的な武力攻撃を受けていること、それからそれを排除するためにほかの適当な手段がないこと、それから発動の態様は必要最小限に限るということでございます。
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第145回国会 参議院 外交・防衛委員会 第5号 平成11年3月15日


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○政府委員(大森政輔君)

(略)

 すなわち、日本国は独立主権国として自国の安全を放棄しているわけではない。それは、憲法上も平和的生存権を確認している前文の規定とか、あるいは国民の生命、自由あるいは幸福追求に対する権利を最大限度尊重すべき旨を規定している憲法十三条の規定等を踏まえて憲法九条というものをもう一度見てみますと、これはやはり我が国に対して外国から直接に急迫不正の侵害があった場合に、日本が国家として国民の権利を守るための必要最小限の実力行使までも認めないというものではないはずである。……(略)……

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第145回国会 参議院 日米防衛協力のための指針に関する特別委員会 第9号 平成11年5月20日


〇 「最小限度」
 ⇒ 「必要」がない


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○伊藤説明員 防衛出動が下令されますのは、七十六条によりまして、外部からの武力攻撃があった場合、それから武力攻撃のおそれのある場合ということになっております。

 これと、自衛権を行使する、すなわち武力を行使するということの間には差があるわけでございまして、自衛権の行使というのは、いわゆる自衛権の行使の三要件というのがございまして、急迫不正の侵害があるとき、それに対して他に全く手段がないとき最小限度の自衛力を行使するということになっているわけでございます。

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第84回国会 衆議院 内閣委員会 第27号 昭和53年8月16日

〇 「必要な限度」
 ⇒ 「最小」がない


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○鳩山国務大臣 私が先ほど申し上げましたことで、憲法を改めなくても自衛力が持てると申しましたのは、言葉が足りなくて誤解を招きましたが、その真意は、自衛のため必要最小限度防衛力を持てると申したのでありまして、決して近代的な兵力を無制限に持ち得ると申したのではありません。また自衛のためというのは、他国からの侵略を受けた場合に、これを排除するため必要な限度という意味で申したのであります。……(略)……
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第22回国会 衆議院 内閣委員会 第23号 昭和30年6月16日

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 その上で、憲法九条のもとで許される自衛のための必要最小限度の実力の行使につきまして、いわゆる三要件を申しております。我が国に対する武力攻撃が発生したことこの場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと、それから、実力行使の程度が必要限度にとどまるべきことというふうに申し上げているわけでございます。
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第159回国会 衆議院 予算委員会 第2号 平成16年1月26日

 

 政府は「必要最小限度」について、時々「必要な限度」と答弁している場合がある。しかし、憲法学の人権制約原理に関する学説では、この二つの意味を明確に区別し、異なる意味で用いている場合がある。

 そのため、同様に憲法上の制約範囲を描き出す際に用いられている「必要最小限度」についても、「必要な限度」という文言と丁寧に区別して理解し、混乱を与えないように「必要最小限度」の用語に統一するべきであると考える。


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