安保法制 仙台高裁判決の分析



 安保法制違憲訴訟の仙台高裁判決について取り上げる。


【判決】各損害賠償請求控訴事件 仙台高等裁判所 令和5年12月5日 (PDF添付文書



〇 当サイトでは、新三要件の第一要件後段(存立危機事態)と、自衛隊法76条1項2号(存立危機事態)での同88条1項による「武力の行使」が9条に違反するか否かの論点を中心としている。そのため、その他の論点については灰色で潰した。


〇 項目のタイトルの文字サイズを拡大したところがある。

〇 段落のまとまりを分かりやすくするために改行を加えているところがある。

〇 裁判所が資料を引用して示している部分についてインデント(字下げ)を加えている。

〇 主要な文に色付けしている。

〇 リンクを加えている。 

 




主文


1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。



事実及び理由



第1 控訴の趣旨


1 原判決を取り消す。

2 被告は、原告らに対し、各1万円(訴訟承継人は各5000円)及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。




第2 事案の概要


 事案の概要は、原判決の「事実及び理由」第2のとおり。補足訂正して整理すると次のとおりである。以下略語は原判決に従う。



1 原告らの請求


 原告らは、憲法9条1項の下では許されない集団的自衛権の行使を容認する平和安全法制の立法により、平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権、国民投票権が侵害されたと主張し、国家賠償法1条1項に基づき、各原告につき慰謝料1万円の損害賠償と法成立日からの遅延損害金の支払を求めた。



2 前提事実


⑴ 集団的自衛権と憲法との関係についての従来の政府見解


 昭和22年5月3日に施行された日本国憲法9条1項は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と規定した。


 昭和47年10月14日、内閣法制局は、「集団的自衛権と憲法との関係」という資料(別紙2)を参議院決算委員会に提出し、集団的自衛権と憲法との関係について、下記のとおり、憲法の下で武力行使を行なうことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないという政府の憲法解釈(昭和47年政府見解)を示した。


「国際法上、国家は、いわゆる集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにかかわらず、実力をもって阻止することが正当化されるという地位を有しているものとされており、国際連合憲章第51条、日本国との平和条約第5条(c)(中略)の規定は、この国際法の原則を宣明したものと思われる。そして、わが国が国際法上右の集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然といわなければならない。

 ところで、政府は、従来から一貫して、わが国は国際法上いわゆる集団的自衛権を有しているとしても、国権の発動としてこれを行使することは、憲法の容認する自衛の措置の限界をこえるものであって許されないとの立場にたっているが、これは次のような考え方に基づくものである。

 憲法は、第9条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において「全世界の国民が・・・・平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認し、また、第13条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、・・・・国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであって、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。しかしながら、だからといって、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであって、それは、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行なうことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」



⑵ 集団的自衛権の行使が許容される旨の平成26年閣議決定


 内閣は、平成26年7月1日付け閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(別紙3)により、下記のとおり、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至ったとし、憲法上許容される「武力の行使」は、国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合があるという政府見解を示した。


「憲法第9条はその文言からすると、国際関係における「武力の行使」を一切禁じているように見えるが、憲法前文で確認している「国民の平和的生存権」や憲法第13条が「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めている趣旨を踏まえて考えると、憲法第9条が、我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは到底解されない。一方、この自衛の措置は、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認されるものであり、そのための必要最小限度の「武力の行使」は許容される。これが、憲法第9条の下で例外的に許容される「武力の行使」について、従来から政府が一貫して表明してきた見解の根幹、いわば基本的な論理であり、昭和47年10月14日に参議院決算委員会に対し政府から提出された資料「集団的自衛権と憲法との関係」に明確に示されているところである。

 この基本的な論理は、憲法第9条の下では今後とも維持されなければならない。

 これまで政府は、この基本的な論理の下、「武力の行使」が許容されるのは、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られると考えてきた。しかし、(中略)パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。

 我が国としては、(中略)これまでの憲法解釈に基づいて整備されてきた既存の国内法令による対応や当該憲法解釈の枠内で可能な法整備などあらゆる必要な対応を採ることは当然であるが、それでもなお我が国の存立を全うし、国民を守るために万全を期す必要がある。

 こうした問題意識の下に、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。

 我が国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然であるが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである。」



⑶ 平和安全法制の立法


 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第76号、別紙4のとおりであり、改正された主な法律の新旧対照条文は、別紙5のとおりである。)及び「国際平和共同対処事態に対して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(平成27年法律第77号)の平和安全法制関連2法が、平成27年9月19日に成立し、同月30日に公布され、平成28年3月29日に施行された。

 平和安全法制により、以下のとおり、海外における自衛隊や自衛官の任務や活動の範囲を拡大する法改正等がされた。主な改正内容は、①「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」に際し、自衛隊の防衛出動を命ずることができるように自衛隊法が改正され、②「我が国周辺の地域」における事態に限ることなく「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)に際し、自衛隊が、外国の軍隊に対する後方支援活動として、弾薬の提供並びに戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備ができるように、周辺事態法が重要影響事態法に改正され、③国際平和協力法の改正により、自衛隊が海外で行う国際平和協力業務に「駆け付け警護」が加えられ、その際に武器の使用が認められることになり、④自衛官が、自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している外国の軍隊の「武器等防護」に従事する任務が加えられ、その際に武器の使用が認められることになったことである。



⑷ 存立危機事態に際しての自衛隊の防衛出動


 自衛隊法の改正により、防衛出動(自衛隊法76条1項)の要件が改正された。

 防衛出動は、自衛隊法76条1項に定める一定の事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、内閣総理大臣が、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができるとされているものであり、防衛出動を命ぜられた自衛隊は、我が国を防衛するため、必要な武力を行使することができると定められている(自衛隊法88条)。

 法改正により、防衛出動の要件となる事態には、改正前の「我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」に加え、新たに、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(自衛隊法76条1項2号)が追加された。

 この自衛隊法76条1項2号に追加された事態は、「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(事態対処法)において「存立危機事態」と定義され(2条4号)、同法により、政府は、存立危機事態に至ったときは、存立危機事態への対処に関する基本的な方針を定め(9条1項)、この基本方針に定める対処措置には、存立危機武力攻撃我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの)を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動も含まれるものとされた(2条8号ハ⑴、9条2項3号)。



⑸ 後方支援活動及び協力支援活動の追加


 「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(周辺事態法)が「重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(重要影響事態法)に改められ、改正後の重要影響事態法は、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)に際し(1条)、自衛隊が、合衆国軍隊等(アメリカ合衆国の軍隊及びその他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織)に対する後方支援活動として、物品及び役務の提供を実施することができると定めた(3条1項1号、2号、2項、6条、別表第1)。

 重要影響事態は、改正前の周辺事態法で「我が国周辺の地域における」事態に限っていた地域の限定をなくした上、周辺事態法では同法で認められるアメリカ合衆国の軍隊に対する後方地域支援(3条1項1号、2項、別表第1)について、別表第1の備考において、「1 物品の提供には、武器(弾薬を含む。)の提供を含まないものとする。」、「2 物品及び役務の提供には、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まないものとする。」と定めていたものを、改正後の重要影響事態法による後方支援活動については、別表第1の備考を「物品の提供には、武器の提供を含まないものとする。」と改め、弾薬の提供並びに戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を行うことができることになった。

 平和安全法制により新設された「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和支援法)においても、同様に、国際平和共同対処事態(1条)に際し、自衛隊による協力支援活動として、諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供を実施することができることが定められた(3条1項1号、2号、2項、7条、別表第1)。

 協力支援活動による諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供についても、重要影響事態法による後方支援活動と同様、弾薬の提供並びに戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を行うことができることとされた。



⑹ 駆け付け警護の追加


 「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(国際平和協力法)の改正により、海外で行われる自衛隊の国際平和協力業務の中に、新たな業務として「駆け付け警護」が加えられた(3条5号ラの追加)。

 国際平和協力業務は、防衛大臣が、実施計画等に基づき自衛隊の部隊等に行わせるものであり(9条)、新たに加えられた駆け付け警護は、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動若しくは人道的な国際救援活動に従事する者又はこれらの活動を支援する者(活動関係者)の生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護の業務である。

 同じく国際平和協力法の改正により、駆け付け警護に従事する自衛官による武器の使用についても定められ、派遣先国において駆け付け警護の業務に従事する自衛官は、その業務を行うに際し、自己又はその保護しようとする活動関係者の生命又は身体を保護するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、実施計画に定める装備である武器を使用することができると定められた(26条2項)。

 平和安全法制の施行後、平成28年11月、駆け付け警護のために、南スーダンに陸上自衛隊の部隊が派遣された。



⑺ 武器等防護の追加


 自衛隊法の改正により、合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器の使用を定めた自衛隊法95条の2の規定が新設された。この規定は、自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要とされる限度で武器を使用することができると定めたものである。

 平和安全法制の施行後、平成29年5月には、共同訓練に従事する米国海軍の艦船に対し、海上自衛隊の護衛艦による武器等防護が実施された。



3 平和安全法制の違憲性についての原告らの主張の要旨


 平和安全法制は、以下のとおり憲法9条1項に明白に違反する。

 自衛隊の防衛出動の要件の改正(前記2⑷)により、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態において、内閣総理大臣が自衛隊に対して防衛出動を命じた場合(自衛隊法76条1項2号)、自衛隊は、必要な武力の行使をすることができることとなった(同法88条1項)。

 これは、集団的自衛権の行使、すなわち、自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することを可能とするものである。政府は、平成26年閣議決定前は、一貫して、集団的自衛権の行使は憲法9条1項の下では許されないと解しており、上記自衛隊法の改正は、憲法9条1項に明白に違反する。

 後方支援活動等として、現に戦闘行為が行われている現場でない限り、戦闘現場に近接した場所であっても、周辺事態法では認められていなかった弾薬の提供並びに戦闘作戦行動のために発進準備中の戦闘機に対する給油及び整備を行うことができるようになり(前記2⑸)、自衛隊は、地理的制限なく、敵国の軍事目標となる「兵站」活動をすることが可能となった。後方支援活動等の立法は、他国の軍隊の武力行使との一体化を招くものであるから、憲法9条1項に明白に違反する。

 駆け付け警護として、任務を妨害する相手に対する武器の使用が可能とされたことは(前記2⑹)、自衛隊が他国の軍隊と共に武力を行使することを認めるものであり、国際連合平和維持活動部隊に派遣される自衛隊が、国又は国に準ずる組織との間での武力を用いた紛争の一環としての戦闘行為(国際的な武力紛争)に巻き込まれることは避けられないから、憲法9条1項に明白に違反する。

 武器等防護の追加(前記2⑺)により、米軍等の外国軍隊の武器等を防護するため、武器を使用することが可能とされた。このような武器の使用を認めることは、相手国等からの反撃を招くこととなり、内閣総理大臣の防衛出動命令もないまま、実質的な集団的自衛権の行使として我が国を国際的武力紛争の当事者とするものであり、武器等防護を追加する法改正は、憲法9条1項に明白に違反する。



4 権利利益の侵害についての原告らの主張の要旨


 平和安全法制は、集団的自衛権の行使、後方支援活動等、駆け付け警護、武器等防護を容認し、制度化するもので、戦争の準備行為に該当する。実際に、駆け付け警護や武器等防護の実施により、我が国が戦争に巻き込まれたり、テロの対象とされたりする現実的な危険性が発生した。

 原告らは、原判決別紙被害一覧表(控訴のない原告に関する2⑺、⒃を除く。)のとおり、それぞれの立場から平和を愛し、これを願って心のよりどころとしてきた心情が痛く傷つけられ、平和的生存権が侵害された。

 平和安全法制は、我が国が他国の戦争に巻き込まれたり、テロの対象とされたりする危険性を現に生じさせるものであり、これにより、原告らの生命、身体及び財産が侵害される客観的な危険性が惹起されたのであって、生命権、身体権及び精神に関する利益としての人格権が侵害された。原告らの生命、身体及び財産に対する客観的な危険性が惹起されたとは認められないとしても、原告らは、前記被害一覧表のとおり、その生命、身体及び財産を危険にさらされているものと強く感じ、不安を抱き、内心の平穏を害され、この点からも上記の人格権が侵害された。

 平和安全法制は、前記被害一覧表のとおり原告らが戦後に築いてきた平和な生活を否定し、破壊するものであり、原告らの平穏生活権を侵害する。

 平和安全法制は、政府解釈により確立していた憲法9条の規範内容を、憲法改正手続を潜脱して実質的に改変するもので、憲法改正手続に基づいて国民投票権を行使し、憲法改正の是非について議論・意思表示する機会を奪うものであって、原告らの憲法改正・決定権を侵害し、憲法改正手続における国民投票権をも侵害する。




第3 当裁判所の判断


1 集団的自衛権と憲法との関係についての政府の憲法解釈の変更


⑴ 従来の政府の憲法解釈


 日本国憲法は、日本国民が「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」て憲法を確定したものであり(前文第1段)、平和的生存権について、「全世界の国民が、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」(前文第2段)と述べた上で、戦争の放棄につき、9条1項において、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と定め、憲法13条1項は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めた。


 憲法9条の下において認められる自衛権の発動としての武力の行使については、政府は、従来から、下記の3要件に該当する場合に限られると解してきた。


① 我が国に対する急迫不正の侵害があること

② これを排除するために他の適当な方法がないこと

③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと


 この政府解釈は、憲法は、9条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において「全世界の国民が平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認し、また、13条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を定めていることからも、我が国が自らの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであって、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとは到底解されないという政府の憲法解釈に基づくものであった。

 集団的自衛権と憲法との関係について、昭和47年政府見解(別紙2)は、この武力の行使の3要件に照らして、憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、我が国に対する急迫不正の侵害に対処する場合に限られるから、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とする集団的自衛権の行使は、憲法上許されないと解釈したものであり、政府の確定的な憲法解釈を示したものである。



⑵ 平成26年閣議決定による集団的自衛権行使の容認


 平成26年閣議決定(別紙3)は、「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」という問題意識の下に、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきである」と判断し、憲法上許される武力の行使についての従来の政府解釈の3要件の①、②を改めて、以下のとおり、武力の行使の新しい3要件(新3要件)を示した。


① 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること

② これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るため他に適当な手段がないこと

③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと


 憲法上許容されると判断した新3要件による「武力の行使」と集団的自衛権との関係については、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要があり、憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある、この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものであるという憲法解釈を示した。



2 新3要件と憲法及び集団的自衛権との関係についての政府の国会答弁


⑴ 内閣総理大臣の国会答弁


 内閣総理大臣は、平成26年閣議決定において新3要件を満たす武力の行使が憲法上許容されると判断するに至った理由、集団的自衛権に関する従来の政府見解との整合性につき、平成26年7月14日の衆議院予算委員会において、次のとおり答弁した(別紙6予算委員会会議録(甲A7)3頁)。


 ① 平成26年閣議決定により憲法上許容されると判断するに至った武力の行使は、新3要件を満たす場合に限定されており、あくまでも、我が国の存立を全うし、国民を守るためのやむを得ない自衛の措置に限られている。

 ② 新3要件に照らせば、我が国がとり得る措置には当然おのずから限界があり、国連憲章において各国に行使が認められているのと同様の集団的自衛権の行使が憲法上許容されるわけではない。

 ③ 新3要件は、我が国を取り巻く安全保障環境が客観的に大きく変化をし、一層厳しさを増しているという現実を踏まえて、従来の憲法解釈との法理的整合性と法的安定性を維持し、従来の政府見解(昭和47年政府見解)における憲法9条の解釈の基本的な論理を何ら変更することなく、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために合理的な当てはめの結果として導き出されたものである。世界各国と同様の集団的自衛権の行使を認めるなど、憲法9条の解釈に関する従来の政府見解の基本的な論理を超えて武力の行使が認められるとするような解釈を現憲法のもとで採用することは困難であり、その場合には、憲法改正が必要になる。



⑵ 内閣法制局長官の国会答弁


 内閣法制局長官は、同予算委員会において、新3要件の解釈につき、次のとおり答弁した(同会議録7、8頁)。


 ① 新3要件は、昭和47年政府見解における基本論理を維持し、その考え方を前提としたものであり、第1要件の「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分は、昭和47年政府見解の「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態」に対応するものである。これまで、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみが、昭和47年政府見解にいう「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態」に当たると解してきたことを踏まえると、第1要件の「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」とは、他国に対する武力攻撃が発生した場合において、そのままでは、すなわち、その状況の下、国家としてのまさに究極の手段である武力を用いた対処をしなければ、国民に、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況であることをいうものと解される。

 ② 第1要件に該当するかどうかについては、実際に他国に対する武力攻撃が発生した場合において、事態の個別具体的な状況に即して、主に攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民がこうむることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断することになる。明白な危険というのは、その危険が明白であること、すなわち、単なる主観的な判断や推測等ではなく、客観的かつ合理的に疑いなく認められるというものであることと解される。

 ③ 第2要件の「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るため他に適当な手段がないこと」は、第1要件で他国に対する武力攻撃の発生を契機とするものが加わったことから、従来の3要件では単に、「これを排除するために他の適当な手段がないこと」としていたのを改め、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るため他に適当な手段がないこと」とし、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使についても、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置に限られ、当該他国に対する武力攻撃の排除それ自体を目的とするものではないということを明らかにしている。

 ④ 平成26年閣議決定は、国際法上、集団的自衛権の行使が認められる場合の全てについてその行使を認めるものではなく、新3要件のもと、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として、一部限定された場合において、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とする武力の行使を認めるにとどまるものである。このような、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置としての武力の行使は、「国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある」ということである。しかしながら、それ以外の、自国防衛と重ならない、他国防衛のために武力を行使することができる権利として観念される、いわゆる集団的自衛権の行使を認めるものではない。

 ⑤ 平成26年閣議決定は、平和主義を具体化した規定である憲法9条の下でも、極限的な場合に限っては例外的に自衛のための武力の行使が許されるという昭和47年政府見解の基本論理を維持し、その考え方を前提としたものである。その意味で、これまでの憲法9条をめぐる議論と整合する合理的な解釈の範囲内のものであり、憲法の基本原則である平和主義をいささかも変更するものではない。



3 集団的自衛権行使容認の違憲性に関する長谷部教授の意見


 集団的自衛権行使容認の違憲性と国家賠償法1条1項の違法性に関する憲法学者長谷部恭男教授の意見は、別紙7意見書のとおりであり、要旨次のとおりである(甲B111の1、甲B115、長谷部証人)


 憲法9条の下で武力行使が許されるのは、個別的自衛権の行使、すなわち日本に対する急迫不正の侵害があり、これを排除するために他の適当な手段がない場合であって、しかもそれも必要最小限度の実力行使に限られるとの政府の憲法解釈は、自衛隊創設以来、平成26年閣議決定に至るまで変わることなく維持されてきた。集団的自衛権の行使は典型的な違憲行為であり、憲法9条を改正することなくしてはあり得ないことも、繰り返し政府によって表明されてきた。

 憲法の基本的役割の一つは、政府の活動し得る範囲を明確に示すことによって、恣意的な権力行使のリスクを抑止し、国民の基本権を保障するとともに社会全体の中長期的な利益(公共の福祉)が侵害されるリスクを極小化することにある。憲法の条文自体が政府の活動範囲を明確に示さないときは、有権解釈がその間隙を埋める。憲法の有権解釈は憲法典そのものと同様、一体として憲法の内容を構成する。憲法9条に関して、内閣法制局を中心として政府が示してきた有権解釈は、その意味で憲法の内容を構成している。

 平成26年閣議決定は、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合には、当該他国を防衛するための集団的自衛権の行使も許容されるとし、内閣総理大臣が自衛隊に出動を命じることができる場合として、この文言が自衛隊法76条1項に付け加えられている。

 これは、個別的自衛権の行使のみが憲法上、認められるとの従来の政府見解の示すその論拠に基づいて、集団的自衛権の行使が限定的に認められるかのように装うものである。しかし、自国を防衛するための個別的自衛権と、他国を防衛するために他国の要請に応じて武力を行使する集団的自衛権とは、その本質を異にしており、前者のみが許されるとするその論拠が、後者の行使を容認するための論拠となるとはおよそ考えられない。

 平成26年閣議決定は、政府の憲法解釈には「論理的整合性」と「法的安定性」が要求されるとしながら、「法的安定性」については、何ら語るところがない。「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」という、いかにも限定的に見える法の文言と政府の実際の意図との間には、常人の理解を超えた異常な乖離があり、この文言が持つはずの限定的な役割は実際には否定されている。

 平成26年閣議決定の提示する憲法解釈には、「論理的整合性」も「法的安定性」も欠如している。このような破綻した論理に基づいて、長年にわたり繰り返し政府によって表明され、国民に対する約束としての性格を帯びる、個別的自衛権の行使のみが現在の憲法9条の下で認められるとの有権解釈をこの閣議決定が変動させたことは、明らかに違憲である。

 国家賠償法1条1項の違法性については、人格権につき、生命・身体の安全が侵害される具体的危険の発生が客観的に予見されない限り権利侵害があるとはいえないとの判断基準は、通常の国家賠償事件においては適切なものであり、過去の最高裁判例においても同様の判断基準が採用されていると考えられる。しかし、以下の2つの事情から、この判断基準は、本件については適切とは言えない。

 第1に、いったん集団的自衛権が実際に発動されあるいはその発動が切迫していることが客観的かつ具体的に予見される状況に立ち至れば、裁判を通じて国家賠償法上の違法性を認定することは、もはや遅きに失することとなる。違憲性の明白な集団的自衛権行使及びそれに対する他国の反応により、極めて多くの国民の生命・身体に対して回復困難で、かつ、計り知れない損害が加えられることが必至となる状況に立ち至るまで、裁判所が国の行為の違法性について判断を控えるべきであるとすることは、司法権の行使を放棄するに等しく、国民の裁判を受ける権利をないがしろにするものである。国の一連の行為の出発点となる憲法解釈の変更に明白な違憲性が認められ、その結果、いったん政府が具体的な行為をとるならば多くの国民に膨大で甚大かつ不可逆的被害が発生する危険性がある場合には、そうした結果の発生を確実に予測し得ない場合であっても、予防=事前配慮原則にのっとり、国家賠償法1条1項における違法性を認定すべき十分な理由がある。

 第2に、本件において通常の事案より積極的な司法判断が求められることは、平成26年閣議決定による政府の解釈変更の結果として、政府がいかなる場合に武力を行使するかが、曖昧模糊とした不確実性を帯びるものとなったことからも根拠づけられる。新たな解釈の下、政府による武力行使が客観的かつ具体的に予見される状況であるか否かを判断することは従前の解釈の下よりもはるかに困難となっている。自衛権発動の基準が曖昧化したために、国民の権利侵害に関する具体的危険性発生の判断自体が困難になっている

 憲法9条をめぐるこうした不確実性を考慮すれば、具体的危険性の発生の有無にこだわるべき理由はない。武力行使の発動基準全体が漠然性の瑕疵を帯びるに至ったために結果発生が不確実となった場合には、予防=事前配慮原則に即して、具体的危険性の発生を待つことなく、出発点となる発動基準の違憲性を正面から問題とし、平和安全法制のうち当該発動基準を取り込んでいる部分の違憲性を指摘することで、数多くの国民の生命・財産が深刻な危険にさらされるリスクを根源から除去し、政治権力の恣意的な運用を阻止するという最低限の意味での立憲主義を回復することが、司法に求められる。



4 平和安全法制に関する国家賠償法1条1項の違法性の判断基準について


 憲法17条は、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と規定し、国家賠償法1条1項は、国家賠償責任について、国の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国が、これを賠償する責に任ずると定めている。

 国家賠償法1条1項の規定する「違法に他人に損害を加えた」という要件、すなわち違法性の判断は、憲法を基本とする法秩序に照らし、侵害される利益の性質と侵害する行為の態様の両面から相関的に考慮して判断すべきものと考えられる。

 原告らの主張する権利利益の侵害の内容は、平成26年閣議決定とこれに基づく平和安全法制により、従来の政府解釈により憲法9条の下で許されなかった集団的自衛権の行使が容認されて、新たに自衛隊法76条1項2号により存立危機事態における防衛出動が認められたほか、外国の軍隊への弾薬の提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含む後方支援活動等が自衛隊の任務に追加され、更に、駆け付け警護、武器等防護などの海外で武器の使用が認められる自衛隊や自衛官の活動が認められるなど、海外での自衛隊の任務や活動の範囲が拡大されたことにより、我が国が他国の戦争に巻き込まれたり、テロの対象とされたりする危険性が生じ、これにより原告らの生命、身体及び財産が侵害される危険性が惹起されたというものである。このような権利利益の侵害につき、原告らは、平和的生存権ないし人格権の侵害と主張するのである。

 たしかに、平和安全法制により、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使が、憲法9条の下で認められる武力の行使についての従来の政府の憲法解釈を変更した平成26年閣議決定の示す新3要件の下で認められ、海外における自衛隊の任務や活動が拡大したことにより、我が国が他国の戦争に巻き込まれたり、テロの対象とされたりする危険性が高まることは否定できないと考えられ、これにより国民の生命、身体及び財産が侵害される危険性が高まることも、一般的抽象的な可能性として否定できないと考えられる

 しかし、このような危険性が高まるということは、必ずしも、生命・身体の安全が侵害される具体的危険の発生が、現時点において客観的に予見可能であるというものではなく、この観点から見れば、直ちに国家賠償法上の違法性を裏付けるものとはいえない。なお、その点を補足すると、原判決の「事実及び理由」第3の1⑶の説示のとおりである。

 他方で、原告らは、従来の政府の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認した平成26年閣議決定やこれに基づく平和安全法制は、憲法9条に明白に違反すると主張し、長谷部教授の意見は、国の一連の行為の出発点となる憲法解釈の変更に明白な違憲性が認められ、その結果、いったん政府が具体的な行為をとるならば多くの国民に膨大で甚大かつ不可逆的被害が発生する危険性がある場合には、そうした結果の発生を確実に予測しえない場合であっても、予防=事前配慮原則にのっとり、国家賠償法1条1項における違法性を認定すべきであると述べる。

 この観点から見ると、たしかに憲法9条の下で許容される武力の行使の範囲についての従来の政府解釈を変更した平成26年閣議決定と平和安全法制は、従来の政府の憲法解釈により憲法9条1項の下で許されないと解されていた集団的自衛権の行使を、限られた場合とはいえ容認したものであり、憲法の基本理念である平和主義に重大な影響を及ぼす可能性のある憲法解釈の変更である。平和主義を基本理念とする憲法の下において、仮に原告らの主張するように、戦争放棄や平和主義の理念に反する違憲性の明白な憲法解釈の変更が、憲法改正の手続によらずに行われたとすれば、憲法の平和主義の理念に反する違憲性の明白な侵害行為によって生ずる生命・身体の安全に対する危険性を国民が甘受すべき理由はなく、また、そのような武力の行使に関していったん政府が具体的な行為をとれば、多くの国民に重大かつ回復不能の被害が発生する危険性が生ずるおそれがあるといえるから、このような場合には、違憲性の明白な行為によって生ずる可能性があるそのような重大な危険を未然に防止する必要性も高いといえる。

 したがって、閣議決定による憲法解釈の変更と平和安全法制について、憲法の平和主義の理念や憲法9条の戦争放棄の規定に反する違憲性が明白であれば、明白な憲法違反の行為によって平和が脅かされた場合における国民の生命・身体の安全に対する危険が重大かつ回復不能なものとなることも踏まえ、具体的な政府の行為による結果の発生を確実に予測できない場合でも、侵害行為の態様と侵害される利益の性質を相関的に考慮して、違法な権利利益の侵害になり得ると解するのが、国家賠償法1条1項の違法性の判断の在り方として相当であると考える。



5 平成26年閣議決定と平和安全法制の明白な違憲性の有無について


 従来の政府の憲法解釈では、憲法9条の下で極めて限定的に許容される武力の行使についての3要件(①我が国に対する急迫不正の侵害があること、②これを排除するために他の適当な方法がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと)を確認し、憲法の下で、武力行使を行うことが許されるのは、我が国に対する急迫不正の侵害に対処する場合に限られ、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とする国際法上の集団的自衛権の行使は、憲法9条1項に反して許されないと解していた。


 平成26年閣議決定は、武力の行使が許される新たな3要件(①我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること、②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと)を示し、新3要件による武力の行使は、自衛のための措置として憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至り、この武力の行使には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とする武力の行使が含まれ、これは、国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合があるとの解釈を示した。

 平和安全法制により改正された自衛隊法76条1項2号は、新3要件のうち第1要件に該当する事態(存立危機事態)に際し、内閣総理大臣が自衛隊に防衛出動を命ずることができることを定め、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」に際し、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする自衛隊による武力の行使が可能となり、その限りでは、国際法上の集団的自衛権の行使が、自衛隊法により可能となった。


 原告らの主張や長谷部教授の意見によれば、憲法の有権解釈は、憲法典と一体として憲法の内容を構成し、個別的自衛権の行使のみが憲法9条の下で認められるという有権解釈を閣議決定が変動させたことは、明らかに違憲であるという。

 たしかに、従来の政府の憲法解釈においては、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とする国際法上の集団的自衛権の行使は、憲法9条1項に反して許されないと明確に解釈していたのであるから、平成26年閣議決定や平和安全法制による自衛隊法の改正により、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使が自衛隊に認められ、その限りであっても集団的自衛権の行使が容認されたことは、従来の政府の憲法解釈を明らかに変更するものであって、憲法学者の多数の意見や政府の憲法解釈を担ってきた多くの行政官の意見のように、憲法9条1項の下で許される武力の行使の限界を超えると解する余地もあると思われる。


 しかし、一方で、新3要件の下で認められる他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使は、あくまで、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」という要件をも満たす場合に限られ、その限りで国際法上の集団的自衛権の行使が憲法上容認されるという解釈が示されたものであって、国際法上の集団的自衛権の行使が全体として憲法上容認されるという見解が示されたものではない。

 内閣総理大臣も、国会において、平成26年閣議決定により憲法上許容されると判断するに至った武力の行使は、新3要件を満たす場合に限られており、あくまでも、我が国の存立を全うし、国民を守るためのやむを得ない自衛の措置に限られると答弁し(前記2⑴①)、上記の趣旨を明確に述べている。

 新3要件の解釈について、内閣法制局長官は、国会において、第1要件の「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」とは、他国に対する武力攻撃が発生した場合において、そのままでは、すなわち、その状況の下、国家としてのまさに究極の手段である武力を用いた対処をしなければ、国民に、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況であることをいうものと解されると答弁し(前記2⑵①)、第 1 要件のうち「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」とは、「我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況」に限られるという解釈を示した上で、第1要件に該当するかどうかについては、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民がこうむることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断することになり、明白な危険は、単なる主観的な判断や推測等ではなく、客観的かつ合理的に疑いなく認められることをいうとの解釈も示し(同②)、第2要件の「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」の趣旨について、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使についても、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置に限られ、当該他国に対する武力攻撃の排除それ自体を目的とするものではないとの解釈を示している(同③)。

 憲法の平和主義の基本理念の根幹をなす憲法9条1項の解釈変更は、仮にそれが憲法解釈において許される範囲であるとすれば、政府の国会答弁における上記のような極めて限定的な趣旨及び解釈の説明は、平成26年閣議決定や平和安全法制の解釈運用に当たって、憲法上、特に重んじられるべきものである。平成26年閣議決定と平和安全法制において憲法上容認されると解釈された他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使は、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置に限られ、一般的な集団的自衛権の行使として許容される当該他国に対する武力攻撃の排除それ自体を目的とする武力の行使は、国際法上は許されるとしても、憲法上は許されないことに変わりがない。また他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使は、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況が、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民がこうむることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断して認められる場合に限られるという国会答弁に示された厳格かつ限定的な解釈の下に、平成26年閣議決定による武力の行使の新3要件も、存立危機事態における防衛出動を可能とした自衛隊法76条1項2号の規定も、厳格に解釈運用されなければならない。

 平成26年閣議決定による武力の行使の新3要件における限定的な要件や、その厳格かつ限定的な解釈を示した政府の国会答弁も踏まえて検討すると、平成26年閣議決定や平和安全法制によって、それまで政府の憲法解釈において一貫して許されないと解されてきた集団的自衛権の行使が、このような限定的な場合に限り憲法上容認されると解されることになったとしても、憲法9条1項の規定や憲法の平和主義の理念に明白に違反し、違憲性が明白であると断定することまではできない。


 長谷部教授の意見には、平成26年閣議決定による政府の解釈変更の結果として、政府がいかなる場合に武力を行使するかが、曖昧模糊として不確実性を帯びるものとなったという指摘もある。この点、政府の憲法解釈の変更や平和安全法制による自衛隊法改正によって、限られた場合であっても集団的自衛権の行使が容認されたことにより、その解釈運用につき不確実性が生ずること自体は免れないであろう。

 しかし、政府が国会に対して厳格かつ限定的な解釈を示した答弁をしたことが、憲法の平和主義と民主主義の理念に基づき、今後の政府の行動において、憲法上の重みを持ってしっかりと守られるべきものであることを前提とすれば、そのような解釈運用の不確実性があるからといって、平成26年閣議決定による政府の憲法解釈の変更やこれに基づく平和安全法制が、憲法9条1項の規定や憲法の平和主義の理念に明白に違反するとまではいえないというべきである。



6 憲法改正・決定権又は国民投票権に対する侵害について


 平成26年閣議決定や平和安全法制は、政府の意思決定や国会の立法にすぎず、憲法の条規を改正するものではない。仮に、政府の意思決定や国会の立法が憲法に違反するとすれば、そのような憲法の条規に反する法律及び国務に関するその他の行為は、憲法98条1項により、その効力を有しないと定められているから、当然に無効となるにすぎず、憲法を改正する効力を有するものではない。

 憲法改正・決定権の侵害や国民投票権の侵害を理由として、国家賠償法1条1項の違法性をいう原告らの主張は、主張自体において理由がない。その理由を補足すれば、原判決の「事実及び理由」第3の1⑷の説示のとおりである。




7 結論


 平成26年閣議決定や平和安全法制が、憲法9条1項に明白に違反するとまではいえないから、これらの政府や国会の行為によって、違法に原告らに損害を加えたという国家賠償法上の違法性が認められない

 原告らの請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。本件控訴は理由がない。

仙台高等裁判所第2民事部

   裁判長裁判官   小林久起

   裁判官   鈴木桂子

   裁判官   山﨑克人


別紙1「控訴人目録」掲載省略

 


 


 第一印象としては、論点を非常によく集約してあり、用語の意味も整って使われている。そのため、この分野の議論の水準を高めることに貢献するものとなっていると考えられる。

 9条の下での「武力の行使」の可否やその限界の論点について、新三要件の第一要件後段(存立危機事態)の内容が曖昧なものであり政府の恣意的な形での「武力の行使」を統制することができないものとして9条に違反するとは判断していない点については、当サイトの認識とは見解を異にする部分である。

 しかし、これまで拡散していた議論がこの部分に集約されていることが明確となり、この水準で議論を継続していけば9条の規範の意味を正確に導き出すことができることに繋がるという点で、これまで議論されていた水準と比べて質の高さを感じられるものとなっている。



〇 9条に違反するか否かの論点について

 新三要件の第一要件後段(存立危機事態)について、客観的、合理的、厳格であることが求められることから9条に違反するとまではいえないなどと述べている。

 しかし、それらを満たすものとして示されていたのが、これまで「我が国に対する急迫不正の侵害があること」という基準であった。

 それにもかかわらず、その基準を取りやめて、客観的、合理的、そして厳格なものであればよいというのでは、政府の恣意性を防ぐための基準となるものを失わせ、政府の恣意的な形での「武力の行使」が行われることを防ぐために必要となる基準を導く際の前提となっている一般論の段階にまで後退させたことを意味する。

 このことは、その時々の政府に対して「武力の行使」の基準となるものを委ねることを意味するのであり、その時々の政府によって恣意的な形で「武力の行使」が行われることを制約するために必要となる基準を有するとはいえない。

 そのため、9条の趣旨に抵触して違憲となるものである。


 これは、下記の議論に似ている部分がある。

 憲法13条の「公共の福祉に反しない限り、」と記載されているが、違憲審査の基準となるものは裁判所が具体的な形で導き出して示すことが必要である。

 その違憲審査の基準となるものがそれまでは具体的に示されていたにもかかわらず、それを取りやめて「公共の福祉に反しない限り、」であれば憲法違反ではないという一般論を述べることで済ませることになれば、議論の水準が後退しており、実質的に違憲審査の基準となるものを失わせていることを意味する。


 これと同様に、どのような状態が「我が国の存立」や「国民の権利」の危機であるのかについての基準となるものがそれまでは「我が国に対する急迫不正の侵害があること」という形で存在していたにもかかわらず、それを失わせて「我が国の存立」や「国民の権利」の危機が客観的、合理的に判断され、厳格であればよいというだけでは、単なる一般論を述べるに過ぎないのであり、これによって政府の恣意性を排除することのできる基準となるものを示しているとはいえない。

 この点が、政府が恣意的な形で「武力の行使」を行うことを制約している9条の趣旨に反しており、違憲となる部分である。

 それにもかかわらず、これを一般論が守られていればよいという話によって9条に違反するとまではいえないと結論付けようとしていることは、9条に違反しないことを説明しているとはいえない。


 





 新三要件の第一要件後段(存立危機事態)や、自衛隊法76条1項2号(存立危機事態)が憲法9条に違反するか否かの論点は、当サイトは下記のページで解説しており、論点は同じである。

 

 

 

〇 「憲法9条1項に明白に違反するとまではいえない」とはどういう意味か


 この判決は、「憲法9条1項に明白に違反するとまではいえない」との表現が用いられている。

 この表現は、砂川事件の最高裁判決が「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、」のように述べて、「違憲」の中身について「一見極めて明白」なものとそうでないものとを区別する視点を有していることを参考として、「違憲」の中にもいくつかの段階があることを前提とする表現として用いられているように思われる。

 つまり、下記のように「違憲」の中身をいくつかの段階に分ける考え方である。



◇ 違憲


・ 憲法に一見極めて明白に違反する


砂川事件最高裁判決では、これを否定している

 「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、」

 「違憲無効であることが一見極めて明白であるとは、到底認められない。」


・ 憲法に明白に違反する


この仙台高裁判決では、これを否定している

 「憲法9条1項の規定や憲法の平和主義の理念に明白に違反し、違憲性が明白であると断定することまではできない。」

 「憲法9条1項の規定や憲法の平和主義の理念に明白に違反するとまではいえないというべきである。」

 「憲法9条1項に明白に違反するとまではいえない」


・ 憲法に違反する


一般的な判例で「違憲」と述べられているものはこれに当たる。



 このように、「違憲」の中身を「憲法に一見極めて明白に違反する」、「憲法に明白に違反する」、「憲法に違反する」のように段階を分けて考えると、「憲法9条1項に明白に違反するとまではいえない」という表現の位置づけは、「憲法に明白に違反する」という段階について「とまではいえない」のように否定されていることを意味する。

 これは、その「憲法に明白に違反する」という段階の評価が否定されることにより、「憲法に一見極めて明白に違反する」という段階の評価も同時に否定されていることを意味するが、それらとは別の「憲法に違反する」という段階の評価までが否定されていることを意味するわけではない。


    〔違憲ゾーン〕

 ・憲法に一見極めて明白に違反する   (← 下記が否定されると、同時に否定される。)

 ・憲法に明白に違反する        (← この判決では、この段階が否定されている)

 ・憲法に違反する           (← 憲法に違反する余地は残っている。)

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ・憲法に違反しない

 ・憲法に明白に違反しない

 ・憲法に一見極めて明白に違反しない


    〔合憲ゾーン〕

 

 この判決では、このような理解を前提とした上で「憲法9条1項に明白に違反するとまではいえない」と述べられていると考えられることから、この文を反対解釈した場合に、それが直ちに「憲法に違反しない」ことになる(=合憲)という説明を行っていることを意味するものではない。

 よって、この判決は、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」での「武力の行使」が「合憲」であると説明しているものではないということができる。




〇 9条の違憲審査の論理構成

 

 「武力の行使」が9条に違反するか否かを判断する際に必要となる論理構造の骨格を示す。



① 条文の目的


 9条は政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を防ぐために設けられた規定である。



② 条文の目的を達成するための手段となる基準


 そのことから、9条の下でもなお「武力の行使」を行うことができるとする余地を見出すとしても、その「武力の行使」を発動するために用いられる要件の中には、政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を防ぐことができる基準となるものが備わっていること必要となる。

 そのため、「武力の行使」の発動要件には、最低限、政府の恣意性を排除することが可能となる「受動性」「客観性」「明確性」の要素を備えていることが必要となる。



③ 条文の目的を達成するための手段となる基準の具体的な事例への当てはめ


・ 三要件(旧)

 そこで、三要件(旧)を見ると、「受動性」「客観性」「明確性」を一定程度認めることができるとする余地がある。

 よって、三要件(旧)は、9条に明白に違反しているとまではいえない。


・ 新三要件

 しかし、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」については、内容が曖昧不明確なものとなっており、「受動性」「客観性」「明確性」の要素を備えるものではない。

 そのため、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」は、9条が政府の恣意的な動機に基づいて「武力の行使」が行われることを制約する趣旨を満たすものではなく、9条に違反する。



 この骨格に対して、条文の根拠や要件の具体的な内容を示すなどしていけば、9条に違反するか否かの審査の過程を描き出すことが可能となる。

 



<理解の補強>

安保法制に憲法判断「明白に違反といえない」 仙台高裁判決 2023/12/5 

安保関連法「違憲といえず」 仙台高裁、初の憲法判断 2023年12月5日

安保関連法は「憲法9条違反とはいえず」仙台高裁 初の憲法判断 2023年12月5日

安保法制は「明白な違憲と断定できない」 原告の控訴棄却 仙台高裁 2023年12月5日

安保関連法、9条違反と言えず 仙台高裁、初の憲法判断 2023/12/5

安保法、9条違反と言えず 仙台高裁が初の憲法判断 2023/12/5

【動画】安保法制、違憲と認めず 初の憲法判断 仙台高裁 2023/12/05

【動画】原告「裁判所が政府の機関に成り下がった」安保法制違憲訴訟で全国初の憲法判断「運用が限定的で明確に憲法違反とまでは言えない」請求を棄却 仙台高裁 2023/12/05

【動画】初の憲法判断「憲法9条に明白に違反しているとまでは言えない」安保法制違憲訴訟で原告敗訴 仙台高裁 2023/12/05

【動画】【速報】安保法、9条違反と言えず 仙台高裁、初の憲法判断 2023/12/05

初の憲法判断「憲法9条に明白に違反しているとまでは言えない」安保法制違憲訴訟で原告敗訴 仙台高裁 2023年12月5日

原告「裁判所が政府の機関に成り下がった」安保法制違憲訴訟で全国初の憲法判断「運用が限定的で明確に憲法違反とまでは言えない」請求を棄却 仙台高裁 2023年12月5日

安保法「違憲といえず」 賠償請求退ける 仙台高裁初判断 2023/12/6

安保法訴訟、初の憲法判断 仙台高裁「9条違反とは言えない」 住民の控訴棄却 2023年12月6日

安保法制、初の憲法判断 原告の控訴棄却 「憲法9条に明白に違反とまで言えぬ」 仙台高裁 2023年12月6日

安保法「9条違反せず」 仙台高裁、初の憲法判断 2023年12月6日

 

 

【判決要旨】安保法制訴訟 仙台高裁が初の憲法判断、原告の控訴棄却 2023年12月5日

 

<社説>安保法制訴訟 矛盾と詭弁の判決だ 2023年12月6日

[社説]安保法違憲訴訟 政府解釈追認の判断だ 2023年12月7日

<社説>安保法「合憲」 政府見解の追従判決だ 2023年12月8日

 

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(3) 更には、政府の集団的自衛権行使・合憲の主張がどのようなものかの事実認定ができていない。

  「昭和47年政府見解の中に集団的自衛権行使を容認する9条解釈の基本的な論理が当時の内閣法制局長官らによって書き込まれている」という政府の虚偽の主張について全く法的検討を行っていない。(当該主張の指摘すらできていない)

 

(4) 武力行使の新三要件の内容の法的検証を全く行わずに、政府答弁の字面だけで「厳格かつ限定的な解釈」などと評価している。

  国会での新三要件の内容の法的追及の国会会議録などを全く検証していない。

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「安保法制を9条で合憲とした判決ではありません。」 Twitter

 

 

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