自民党 加憲案 9条3項 自衛権 法的分析等


 9条3項を設け、「自衛隊」の文言ではなく、「自衛権」の文言を加える加憲案について検討してみよう。


   第2章 戦争の放棄

〔戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認〕
第9条日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

3 自衛権の発動は妨げない。

青山繁晴 私案によると「本九条は、自衛権の発動を妨げない。」となっている。「前項」「前二項」などの文言は現在のところ詳細に詰めていないようである。)

9条新提案「本九条は自衛権の発動を妨げない」…青山繁晴「虎ノ門ニュース」 2017/12/25


前2項の規定は、自衛権の発動を妨げない。

前2項の規定は、我が国の存立や国民の生命、財産を守る自衛権の発動を妨げない。
<自民有志>「自衛権」明記の条文案提案へ 2018/1/24


参考

自民党・青山繁晴参院議員:「総理の真意をくんで第2項は残すものの、総理のおっしゃる自衛隊の明記ということではなく、『自衛権』という言葉にして、第3項として『自衛権の発動は妨げない』ということにしたいという提案をしました」


“自衛権の発動を妨げない” 自民議員が9条改正案 2018/01/24




 下記の問題提起について、当サイトも全く同様の問題意識を持っている。


青山氏は会合後、首相案について「諸外国でも武力組織の固有名詞を明記した憲法はない」と指摘。

自民有志、9条に「自衛権」提案へ=希望代表は賛意 2018/01/24



出席者からは「憲法に防衛省の位置づけがないまま、自衛隊だけを明記すれば、シビリアンコントロール・文民統制の問題が生じる」などという指摘が出されました。

自民有志 憲法9条に 自衛隊ではなく自衛権明記提案へ 2017年1月24日


 当サイトも全くその通りであると考えている。

 ただ、「自衛隊」の文言に限らず、「自衛権」という文言についても、十分に検討していく必要がありそうである。詳しく分析してみることとしよう。


 下記の内容は、多重な意味、解釈において整合性の問題点を記載しているため、批判内容が全体として一貫性がない部分がある。ただ、問題点を洗い出す材料にはなるのではないかと思われる。



〇 「自衛権」は国際法上の概念である。そのため、日本国憲法では基本的に内閣以下の「行政権」が自衛の措置を行った際に、国際法上「自衛権」となるものであると考えられる。大日本帝国憲法上では天皇の「統帥権」が自衛の措置を行った際に、国際法上「自衛権」と呼ばれることとなる。


 他国の場合では、大統領の行政権が自衛の措置を行った際に、国際法上「自衛権」となると考えられる。王権による統治体制であれば、国王の権限で自衛の措置を行使した際に、国際法上「自衛権」と呼ばれることとなると考えられる。イギリス軍の指揮権は君主にあり(国王大権)、その指揮権によって行われる自衛の措置が国際法上「自衛権」と呼ばれることとなると思われる。

 下記で国連憲章の条文を確認する。


   第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動

第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

国連憲章


〇 「自衛権」という言葉を用いる場合、日本国憲法上の独自の「自衛権」という新たな概念を設けるのか、国際法上の「自衛権」の概念を日本国憲法の法典の中に持ち込むのかが問題となる。


 前者の、日本国憲法上の「自衛権」という独自の新たな概念を設ける場合、国際法上の「自衛権」の概念と混乱は免れられない。

 日本独自の「自衛権」の概念を新たに設けるのであれば、国際法上の「個別的自衛権」や「集団的自衛権」の違いについても新しい学術分野を形成する必要がある。

 また、日本国憲法上の独自の「自衛権」という新たな概念であるならば、「立法権」「行政権」「司法権」の三権の他に「自衛権」という第四権力を司る機関を創設することとなるような解釈を導くこともできる可能性も考えられる。つまり、「自衛権」を司る機関が、「立法権」「行政権」「司法権」に匹敵する第四権力機関として君臨し、三権の抑制均衡のバランスに影響を与えることとなり得るのである。このような憲法上の統治規定として設けられている政府権限との切り分けがどのようになされているのかも新たな学説が様々に展開されていく可能性についてどのように収拾をつけるのか考える必要があるだろう。



 後者の、国際法上の「自衛権」の概念を日本国憲法の法典の中に持ち込む場合、日本国憲法の「国際協調主義」は変更され、「国際法主義」となる。つまり、国際法の解釈変更や改正、変遷、定義変更などから日本国内の法体系が侵害され、日本の主権(最高独立性の意味)が損なわれる恐れがあるのである。

 また、国際法上の自衛権とは、一般に「国連憲章」上の自衛権の概念を用いているものと思われるが、国際連合は主権者(日本国憲法下では国民にあたるもの)が存在せず、民主制のプロセスを経て設立された機関ではない。国連は各国の政府と政府の合意として結ばれた条約によって成り立っている機関なのである。


 よって、日本国憲法の中に国際法上の「自衛権」の概念を持ち込んだ場合、他国政府が国連憲章108条の改正規定に従って国連憲章を改正し、自衛権の概念を拡大させたり、縮小させたり、意味を変更したり、新たな定義や概念を加えた場合に、日本国憲法上に設けたの「自衛権」の概念もその影響を受けることとなる。このの場合、日本国憲法がそのような国連憲章の改正プロセスによって影響を受ける形式となっていることを他国政府が利用して、日本の自衛権を自国にとって都合のいい内容へと変容させる政治的意図を持って国連憲章の文言を改正しようとするなどの事態が引き起こされる可能性が含まれることとなる。これでは、国連の政治的な事情に日本の主権が脅かされることとなってしまうのである。


   第18章 改正

第108条
この憲章の改正は、総会の構成国の3分の2の多数で採択され、且つ、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって各自の憲法上の手続に従って批准された時に、すべての国際連合加盟国に対して効力を生ずる

第109条
1. この憲章を再審議するための国際連合加盟国の全体会議は、総会の構成国の3分の2の多数及び安全保障理事会の9理事会の投票によって決定される日及び場所で開催することができる。各国際連合加盟国は、この会議において1個の投票権を有する。
2. 全体会議の3分の2の多数によって勧告されるこの憲章の変更は安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって各自の憲法上の手続に従って批准された時効力を生ずる
3. この憲章の効力発生後の総会の第10回年次会期までに全体会議が開催されなかった場合には、これを招集する提案を総会の第10回年次会期の議事日程に加えなければならず、全体会議は、総会の構成国の過半数及び安全保障理事会の7理事国の投票によって決定されたときに開催しなければならない。


国連憲章


 そもそも、国連憲章やそれによって生まれた国際連合などの国際機関も、普遍的な存在ではない。実際に、「国際連盟」は既に失敗し、廃止され、「国際連合」に変更されている。国際連合もいつしか失敗したり、他の国際機関へと分割、統合、任務の縮小や目的達成による廃止などがなされる可能性もある。国連憲章上の「自衛権」の概念が普遍的な定義でもって人類社会の中に位置づけられているという性質のものではないのである。

 さらに、国連の安全保障理事会の常任理事国入りを目指している日本国としては、国連憲章の中の「自衛権」の文言をそのまま取り入れることは、現在の国際連合の国連憲章の定義や安全保障理事会の制度や安全保障体制をそのまま支持することとなってしまうこととなるのではないだろうか。すると、日本国の安全保障理事会の常任理事国入りを目指す姿勢とはやや矛盾しているようにも思われる。国際協調主義として、日本の主権を保った中での国際機関との関係を保つ姿勢であったものが、拒否権などを行使する五大国(国連憲章23条1項)が権力を握る国連憲章を全面的に支持してその内容に日本国憲法が従うこととなるという意味の完全な国際法主義となり、国連属国主義的にも見えるからである。


   第5章 安全保障理事会

【構成】
第23条
1. 安全保障理事会は、15の国際連合加盟国で構成する。中華民国フランスソヴィエト社会主義共和国連邦グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる。総会は、第一に国際の平和及び安全の維持とこの機構のその他の目的とに対する国際連合加盟国の貢献に、更に衡平な地理的分配に特に妥当な考慮を払って、安全保障理事会の非常任理事国となる他の10の国際連合加盟国を選挙する。
2. 安全保障理事会の非常任理事国は、2年の任期で選挙される。安全保障理事会の理事国の定数が11から15に増加された後の第1回の非常任理事国の選挙では、追加の4理事国のうち2理事国は、1年の任期で選ばれる。退任理事国は、引き続いて再選される資格はない。
3. 安全保障理事会の各理事国は、1人の代表を有する。

国連憲章

 こうなると、日本国は国連の加盟国の大幅な変更によって国連の性質が変容
した際や、国連に変わる新たな国際機関が設立され、国連が衰退した場合に、国連を脱退することができず、国連憲章の文言を日本国憲法の中において引きずり続けることとなる。


 また、日本国内の司法権を持つ裁判所で自衛権に関わる裁判が行われた際に、「自衛権」の文言が国際法上の概念であるならば、日本の裁判所で判決を下せるのかという問題も出てくることとなる。日本国内の裁判所で「自衛権」の権限の範囲、限度、権限の逸脱、濫用の有無等を判断できな
いのであれば、自衛権に関する歯止めは存在しないこととなってしまう。




 憲法学者「青井未帆」の表現を確認する。

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また、仮に自衛隊ではなく、自衛権という言葉を書き込むにしたところで、9条2項を維持したうえで自衛権を書き込むところで、自衛権というのは国際法上の観念でありますから、国内法の憲法でいくら主張しても、「そう主張している」というだけの話です。国際法上、黒か白かということは、国際法的な観点から判断されるわけでありますので、非常に据わりの悪いところで議論をしているのだろうなと思います。
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「憲法論議の視点」 第9条 青井未帆・学習院大学教授 井上武史・九州大学准教授 2018年3月12日 (下線・太字は筆者)


〇 9条は日本国憲法の立法過程の中では当初「前文」の中に置かれていた規定であり、前文と密接な関係を有する規定である。


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3 GHQ草案の起草と日本政府案の作成・公表

 (略)

 なお、試案および原案からは、第9条が、当初前文のなかに置かれ、次いで、第1条に移されていることが読みとれる。これは、平和主義の原則に世界の注目が集められることを望んだマッカーサーの意向を反映したものであった。しかし、後のGHQ草案では、天皇に敬意を表し、「天皇」の章が冒頭に置かれたため、条文番号は第8条となった(2月22日会見のGHQ側記録 )。

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日本国憲法の誕生 論点 戦争の放棄  国立国会図書館

 よって、その9条に加憲をし、「自衛権」の文言を加えることは、その趣旨や精神において、前文の中に「自衛権」や「自衛権を妨げない。」などという言葉を加えることとなるのである。

 すると、前文の日本国憲法制定当初に憲法制定権力者が宣言した決意の文言との一貫性が乱れ、憲法の軸となる精神性の流れが歪んでしまうこととなる。


 前文の中にそれらを明記すると、現行憲法が一体どのような憲法観となるのかを具体的に確認してみよう。
 

 下記は前文であり、太字で示したものが当てはめてみた9条の文言である。(前項の目的を達するため、)の芦田修正はカッコで括った。「自衛権の発動は妨げない。」の文言も加えた。


【前文】+  9条の文言

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 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する


 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する
前項の目的を達するため、)陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない自衛権の発動は妨げない。


 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する


 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる


 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ
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 平和への意志や戦争の放棄について様々に記載された前文の趣旨に対して、急に「自衛権の発動は妨げない。」と書き込まれることとなるのは、どうにも憲法制定権力の固い決意の精神性の奥底を捻じ曲げたような姑息さが表れてしまうのである。



〇 また、9条の置かれた日本国憲法の第二章「戦争の放棄」という戦争の放棄について定める趣旨に対して、「自衛権の発動は妨げない。」という例外規定を設けることは、違和感を感じざるを得ない。この章に加える条文として、その内容の性格に一貫した素直さが感じられないのである。法体系の形式として美しいものではない。


 後世の法学を学習する者に、「んっ?」というような、違和感を常々感じさせることとなる。このような違和感を何百年、もしかすると何千年にわたって、感じさせ続けることとなることは、法学学習者にとっては頭が痛いだろう。「法としてのクオリティ」や「理解のしやすさ・分かりやすさ・完結性」のアクセシビリティが低いのである。

 この点は、「自衛隊」明記でも、「自衛権」明記でも同様である。



〇 9条の条文の主語は、「日本国民は」となっている。よって、「日本国民は、〇〇を放棄する。〇〇を保持しない。〇〇を認めない。」に加えて「〇〇を妨げない。」となる。すると、「日本国民が放棄した」ものを、改正によって「妨げない」こととするのである。素直に読んでいて、意味が分かるだろうか。


 この1項、2項は「日本国民が放棄したために、日本国民の主権(国民主権)によって行使される政府の権限は、国際紛争を解決する手段としての国権の発動たる戦争、武力による威嚇、武力の行使、陸海空軍その他の戦力、国の交戦権が禁止されている。」という意味である。それに対して、3項で「自衛権の発動を妨げない。」となるのである。


 つまり、「1項・2項の主語」と、「3項の主語」では、主語にあたるものが変わっていると読めるのである。これは、「日本国民」の文言の中には、二つの勢力が存在していることになる。1項、2項の「日本国民(憲法制定権力)」の意思表示を、3項の「日本国民(憲法改正権力〔改正手続きの国民投票をした国民〕)」が否定するのである。


 このように、二つの「日本国民」が競合することとなるため、体系の一貫性を必要とする法秩序の作法から見てもまともな改憲案ではない。

 他にも、解釈方法を変えてみると、1項「日本国民は、〇〇を放棄する。」、2項「〇〇を保持しない。〇〇を認めない。」、3項「前二項の規定は、自衛権の発動を妨げない。」となることから、あたかも「日本国民」自身が自衛権を発動するかのようにも読めてしまう。「国(政府)」の自衛権のことを意図していると思うが、このままでは日本語の文法問題としてどうなんだろうか。


〇 「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求(9条)」するという理由で、国政を担う政府(【統治規定】の統治機構)に対する「国民の厳粛な信託(前文)」において、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄(9条1項)」したわけである。


 「放棄」したものを、「妨げない。」というのは、日本語の文法として意味が通じていないのである。


 国連憲章51条の「個別的又は集団的自衛の固有の権利」の『固有の権利』というものは、基本的には主権を持つ者(国民、君主など)が『国家』という共同体の単位を形成した際に、その『国家』が自国を防衛してその存続を維持するための『もともと持っている権利』のことを言うと考えられる。


 以前の国際社会は戦争が違法化されていなかったため、自衛権以外にも、自国の利益を獲得するために他国や他地域に対して侵略を行う権利ももともと有していたと考えられる。(現在でも形成された国家の潜在能力としてはその権利を持つ可能性はあると考えられる。)


 ただ、日本国憲法においては、『国家』という共同体の単位を形成する際に、「日本国民」がその「主権(国民主権)」の「厳粛な信託(前文)」において、「国際紛争を解決する手段として」の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を「放棄」しているのである。


 よって、そもそも「国際紛争を解決する手段として(9条1項)」の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使(9条1項)」を行う権限は、国民主権原理によって成立した「日本国」という国家の「固有の権利」においては存在していないのである。

 この加憲案3項の「自衛権の発動は妨げない。」の文言は、何か「国家」がもともと持っている「固有の権利」を、9条1項の「日本国民」が妨げているというような発想からつくられたものであると思われる。しかし、9条1項の規定は何も妨げてはいないのである。

 9条1項の規定は、「他国の憲法では、主権者である国民が『国権の発動たる戦争と、武力の行使による威嚇又は武力の行使』を行う権利を国(統治機関)に『信託』していることを想定しているが、日本国憲法においては、日本国民がその『信託』を放棄することとした」という意味なのである。


 よって、9条1項は、憲法によって成立する国(統治機関)に対して「信託していません。」と言っているだけのものであり、もともと国の持っている権利を「制限している」というものではないのである。


 よって、もともと発生していないものを、妨げることはできず、9条の条文それ自体も何かを妨げる意味のものではなく、何も妨げていないことから、加憲案3項の「妨げない。」などという発想にはどうしても結びつかない性質のものなのである。

 

 以前の大日本帝国憲法では君主主権であったため、主権者は天皇であった。そのため、天皇がその「固有の権利」にあたる権限を保有していたと考えられる。しかし、それに対比して日本国憲法では君主主権ではなく、国民主権となった。そのため、9条1項の「日本国民は、」の文言は、日本国憲法の国民主権原理と密接に関係する意味合いを有していると考えられる。


 この点、加憲案3項の「妨げない。」の意味合いについて、「国家の権利(統治権や最高独立性にあたる主権を9条1項の『日本国民』が妨げている」との発想で考えているのだと思われるが、それは国民主権原理においては国民が国家に「信託」していないだけであり、信託されない限りは「国家がもともと持っている権利」などというものは存在しないため、9条の文言は何も妨げてはいないのである。


 国民主権原理(権力的契機、正当性の契機)から一通り学び直した方がいだろう。


※ 国民は、9条1項の規定によって「国際紛争を解決する手段として」の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」について永久に放棄しているためにこれらの権利を「信託」していないが、13条では「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めていることから、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を最大に尊重する権利については「信託」しているのである。⇒【解説】

 よって、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利(13条)」を実現するための国家の作用は、9条の規定に違反しない範囲で可能と考えられるのである。よって、その範囲で設立されているならば「自衛隊」などの実力組織は、合憲の存在であると考えられる。

⇒【解説】


 憲法上、「国」に対して要求している条文は、13条に限らない。他にも、17条、25条2項、37条3項、40条などに例がある。

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〔個人の尊重と公共の福祉〕
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


〔公務員の不法行為による損害の賠償〕
第17条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。


〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。


〔刑事被告人の権利〕
第37条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。


〔刑事補償〕
第40条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

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憲法

 国は国民から信託されているため、これらの権利の実現に努めなければならないのである。

 

 現行憲法は、大日本帝国憲法の天皇大権に含まれる軍事権を削除している。


大日本帝国憲法(原文のカタカナはひらがなにしているひらがな・カタカナ変換ツール
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   第1章 天皇


第11条 天皇は陸海軍を統帥す
第12条 天皇は陸海軍の編制及常備兵額を定む
第13条 天皇は戦を宣し和を講し及諸般の条約を締結す


   第2章 臣民権利義務

第20条 日本臣民は法律の定むる所に従ひ兵役の義務を有す

第31条 本章に掲けたる条規は戦時又は国家事変の場合に於て天皇大権の施行を妨くることなし
第32条 本章に掲けたる条規は陸海軍の法令又は紀律に牴触せさるものに限り軍人に準行す
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日本国憲法
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   第2章 戦争の放棄

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない国の交戦権は、これを認めない


   第3章 国民の権利及び義務

第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない


第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
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 現行憲法は、大日本帝国憲法の『天皇主権』から国民主権』に変わっている。その主権者である9条1項の「日本国民」が軍事権を放棄し、不保持とし、否認をし、削除の上に重ねて禁止しているのである。



<おおよその対応関係>

明憲11条 陸海軍を統帥す

 ⇒ 【軍事権限の削除】 現憲9条1項「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇又は武力の行使」を放棄


明憲
12条 陸海軍の編成及び常備兵額

 ⇒ 【軍事組織の削除 現憲9条2項前段「陸海空軍その他の戦力」を不保持


明憲13条 
戦を宣し和を講し

 ⇒ 【対外戦争行為の削除 現憲9条2項後段「国の交戦権」を否認

大日本帝国憲法の改正  権限の移行と削除

大日本帝国憲法 ⇒ 変更 ⇒ 日本国憲法(現行)

【天皇主権】により

天皇の有していた権限

主権の変更

【国民主権】により日本国民が

国家に信託しなかった権限

11条「陸海軍を統帥す 軍事権限の削除 9条1項「国権の発動たる戦争武力による威嚇又は武力の行使」を放棄
12条「陸海軍の編成及び常備兵額 軍事組織の削除 9条2項前段「陸海空軍その他の戦力」を不保持
13条「戦を宣し和を講し」 対外戦争行為の削除 9条2項後段「国の交戦権」を否認
 
20条 日本臣民は法律の定むる所に従ひ兵役の義務を有す 兵役の削除 18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない
31条 本章(注:第2章 臣民権利義務)に掲けたる条規は戦時又は国家事変の場合に於て天皇大権の施行を妨くることなし

侵害可能な

人権観を削除

11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
32条 本章(注:第2章 臣民権利義務)に掲けたる条規は陸海軍の法令又は紀律に牴触せさるものに限り軍人に準行す 軍人の削除 (66条2項 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。)


 大日本帝国憲法において天皇の持つ軍事権は、現行憲法では削除されている。


 また、天皇は現行憲法4条で「国政に関する権能を有しない。」とされ、国家の作用は、41条の国会の『立法権』、76条の裁判所の『司法権』、65条の内閣の『行政権』(控除説:国家作用から立法権と司法権を除いた残りの部分)の三権のみとなった。(地方自治は行政に属するのか議論がある)


 よって、侵略戦争や集団的自衛権を行使して他国防衛を行う組織は、9条2項の「陸海空軍その他の戦力」に該当し、違憲となる。現行憲法ではこれらの組織や権限については認められていないのである。


 ただ、13条は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を「立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定められていることから、国政を担う『立法権』、『行政権』、『司法権』は、それら国民の権利を保障することを義務付けられているのである。

 このことから、国内行政の範囲で、「陸海空軍その他の戦力」に当たらない行政組織としての必要最小限度の実力を保有することは可能であると解される。


 そのため、国会は『立法権』を行使して軍事権に当たらない実力組織についての法律(自衛隊法や海上保安庁などの設置法)や、その権限について定めた法律を立法することができる。


 また、内閣や内閣以下の行政機関も『行政権』を行使して、それらの法律を軍事権に当たらない範囲で執行することが可能である。

 

 

  侵略戦争 集団的自衛権 個別的自衛権

他国固有の権利の例

潜在的能力

「固有の権利」が存在

(国民主権原理の国家であれば、潜在的には国民からの信託によって成立した国家は他国民を排除してでも自国民の幸福追求権のみを目指すことが可能である。)

(ただし、条約で違法化)

「固有の権利」が存在

(陸海空軍その他の戦力を保有することや、自国以外の国が攻撃されたことを理由とする集団的自衛権の行使が可能である。)

「固有の権利」が存在

(陸海空軍その他の戦力を保有することができ、自国が攻撃されたことを理由とする個別的自衛権の行使が可能である。)

日本国固有の権利

潜在的能力

「固有の権利」が不存在

国民から信託されていない部分を示した9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」に該当。9条2項後段の「国の交戦権」にも該当。憲法前文の「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」という平和主義の趣旨からも他国民を犠牲にすることは不可能。

(重ねて、条約でも違法)

「固有の権利」が不存在

(集団的自衛権を行使する組織の実態は、国民から信託されていない部分を示す憲法9条2項前段の「陸海空軍その他の戦力」に該当。また、集団的自衛権は他国民を守る措置であることから、国民から信託を受けている13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を「立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする。」との国家の作用を示した規定を根拠とすることもできない。)

「固有の権利」が存在

(憲法13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を「立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする。」の規定から、国の義務として国民から信託を受けている。この目的を達成するための9条に抵触しない範囲での必要最小限度の自衛の措置や9条に抵触しない範囲での必要最小限度の実力組織を保有することが可能。)

   

 国連憲章51条で「個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。」とされている部分。

〇 「固有の権利」が存在する

✕ 「固有の権利」が存在していない


 国連憲章51条「個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。」となっている。しかし、日本国は日本国憲法制定時における国家の形成の際、日本国民からの「厳粛な信託(前文)」(権力的契機・正当性の契機)の過程において侵略戦争と集団的自衛権に該当する権限を与えられていない。


 なぜならば、9条の主語である「日本国民」が、9条2項によって「陸海空軍その他の戦力」を保持しない旨を宣言し、国家にそれらの権限を信託していないからである。前文によって、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。」としている以上、9条の「日本国民」が放棄し、保持せず、認めないものを国家がその権限として持ちうることはないのである。(これが日本国憲法の三大原理の一つである『平和主義』と解されると考える)


 ただ、13条では「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を「立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定められていることから、これらを実現する権限は国民から「厳粛な信託(前文)」を受けている。よって、国は9条の信託を受けていない範囲に踏み込んでしまうことがないように注意しながら、必要最小限度という抑制的な措置として、13条の信託を根拠とした「自衛の措置(国際法上の個別的自衛権に当たる部分)を行使することができると考えるのである。




 9条の主語は「日本国民」であり、「日本国」ではない。

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〔戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認〕
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。の交戦権は、これを認めない。
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 「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を放棄し、「陸海空軍その他の戦力」を不保持とし、「国の交戦権」を否認したのは、『日本国民』であり、『日本国』ではないのである。


 憲法中の条文では、主権を持つ「日本国民国民と、統治機関である「日本国」「」は明らかに区別されている。参考として憲法中の条文を詳しく見てみよう。



日本国民」「国民」を理解する参考例
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日本国民統合の象徴であつて、(1条)

主権の存する日本国民の総意に基く。(1条)
国民のために、 (7条)
日本国民たる要件は、10条
国民は、すべての基本的人権の享有を11条

この憲法が国民に保障する基本的人権は、11条

現在及び将来の国民に与へられる。11条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、12条

又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、12条
すべて国民は、個人として尊重される。13条

幸福追求に対する国民の権利については、13条
すべて国民は、法の下に平等であつて、14条
罷免することは、国民固有の権利である。15条
すべて国民は、健康で文化的な25条
すべて国民は、法律の定めるところにより、26条
すべて国民は、法律の定めるところにより、26条2項
すべて国民は、勤労の権利を有し、27条
国民は、法律の定めるところにより、30条
両議院は、全国民を代表する選挙された議員で43条
衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、(79条2項)
第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審(82条)
内閣は、国会及び国民に対し、91条
これを発議し、国民に提案してその承認を96条1項

特別の国民投票又は国会の定める96条1項
天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、96条2項
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、97条

現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利97条

 

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日本国」理解する参考例
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日本国の象徴であり(1条)

国事に関する行為のみを行ひ、(4条1項)

国政に関する権能を有しない。(4条1項)
その国事に関する行為を委任(4条2項)
天皇の名でその国事に関する行為を(5条)
左の国事に関する行為を(7条)
の交戦権は、これを認めない。(9条2項)

立法その他の政の上で、13条
は、すべての生活部面について、(25条2項)
又は公共団体に、その賠償を(17条)
から特権を受け、(20条)
でこれを附する。(37条)
にその補償を求めることができる。(40条)
の最高機関であつて、の唯一の立法機関である。(41条)
に緊急の必要があるときは、(54条)

各々国政に関する調査を行ひ、(62条)
の財政を処理する権限は、(83条)
の収入支出の決算は、(90条1項)
の財政状況について(91条)
の最高法規であつて、(98条1項)

日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、(98条2項)
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 よって、国民主権原理によって【「日本国民」「国民」】より「厳粛な信託(前文)」を受けて初めて成立する【「日本国」「」「国政」「国権統治機関】は、9条に示された権限を与えられていないのである。

 


〇 加憲案3項の「自衛権の発動は妨げない。」の中に含まれる「自衛権」の概念が、国際法上の「個別的自衛権」と「集団的自衛権」の両方を含む概念であるならば、現在の憲法上では政府解釈においても不可能とされている「集団的自衛権(フルスペックの集団的自衛権:限定的集団的自衛権のみならず通常の集団的自衛権)」の行使が可能となる。


 すると、自衛隊などの実力組織は他国からの要請に応じて集団的自衛権を行使して、他国防衛を行うことが可能となる。こうなると、自衛隊などの実力組織の実質は、他国防衛が可能となることから、9条の制限の中でも13条の目的を達成するために例外的(限定的)に許容されるとする「必要最小限度の実力組織」や「必要最小限度の自衛の措置」を越える活動を行うことが可能となるのである。


 このような状態は、現在であれば9条2項の「陸海空軍その他の戦力」の文言に抵触するために違憲となる。しかし、加憲案3項によって「自衛権の発動は妨げない。」となることから、その違憲性は回避されることとなる。となると、「陸海空軍その他の戦力」の文言や「国の交戦権」の文言の書かれた9条2項の規定は実質的に無効化することとなる。


  そうなると、何のために9条2項を残したのか意味が分からなくなる。この加憲案3項は、結局は2項削除と同様の状態となるのである。素直に2項削除をすれば、「陸海空軍その他の戦力」や「国の交戦権」に抵触することがなくなることから、法律によって「集団的自衛権」の行使が可能な国防軍を保有できるのである。


 もし加憲案3項の「自衛権」の文言が、「個別的自衛権」のみを指しているのであれば、「個別的自衛権は妨げない。」と書き込むべきである。(ただ、「個別的自衛権」の文言も国際法上の概念であることから、上記や下記に挙げている問題点は同じように残ることとなる。)



〇 9条2項後段の「国の交戦権は、これを認めない。」の文言で、「交戦権」については否認しているはずであるが、加憲案3項で「自衛権の発動は妨げない。」の文言を加えると、「自衛権」は否認していないこととなる。「交戦権を否認」と、「自衛権は肯定」の論理展開であるが、交戦権の内容を明確にし、自衛権の性質も徹底的に明らかにしない以上、このような文言は両立することは難しく、新たな解釈を相当に広げてしまうこととなる。もちろん、現在の自衛隊は「交戦権」は否認されており、「9条の下でも13条の目的達成のための最小限度の自衛の措置(国際法上の自衛権などと呼ばれるものの一部)」は許されていると解釈しているのであるが、新たに「自衛権」の文言を書き込むのであれば、その整合性が十分なものである必要があると考える。


〇 9条2項後段の「国の交戦権」の文言に合わせて、なぜ「国の自衛権」という文言にしないのかは気になるところである。なぜならば、「国の交戦権」の文言は、「立法権」「行政権」「司法権」とは違う性質のものであり、この三権の統治権限を合わせて「国」と表現していると読み取ることができるが、「国の」という文言を含まない「自衛権」のみの文言では、「立法権」「行政権」「司法権」に匹敵する第四権力を生み出したような解釈を導きやすいからである。「自衛権」の文言は国際法上の概念であるとされているが、日本国憲法上に積極的に書き込んだ場合には、日本国憲法独自の意味として発展し、第四権力の権限のようにも読み取れるものとなる恐れが生まれるのである。


「国」の言葉の意味を理解する参考例
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国の交戦権は、これを認めない。(9条2項)

国は、すべての生活部面について、(25条2項)
国又は公共団体に、その賠償を(17条)
国から特権を受け、(20条)
国でこれを附する。(37条)
国にその補償を求めることができる。(40条)
国の唯一の立法機関である。(41条)
国に緊急の必要があるときは、(54条)
国の財政を処理する権限は、(83条)
国の収入支出の決算は、(90条1項)
国の財政状況について(91条)
国の最高法規であつて、(98条)
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 根拠規定として41条「立法権」、65条「行政権」、76条1項「司法権」に加えて、9条3項「自衛権」となり、第四権力機関と見なせる状態となるのである。


 この点は、9条2項後段に使われてる「交戦権」という文言とは、「国の交戦権は、これを認めない。」という「否認」の意味で設けられた禁止規定とは性質が異なるものである。なぜならば、「交戦権」は禁止規定として記載されているが、「自衛権」は根拠規定と解せるからである。そのため、「『交戦権』の文言が既に配置されており、『交戦権』の文言を根拠として『第四権力が存在する』と解釈されているわけではないことから、『自衛権』の文言も同じように加えても構わないはずだ」との見解は採用できないことを押さえておくべきである。


 例えば、第一章「天皇」の章の第4条1項の天皇は「国政に関する権能を有しない。」の禁止規定に対して、その規定を一部解除する「自衛権の発動は妨げない。」の根拠規定を設けることを考えてみよう。

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〔天皇の権能と権能行使の委任〕
第4条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない

(加憲) 自衛権の発動は妨げない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
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 このように加憲すると、天皇は国政に関する権能を有しないはずであったが、たちまち自衛権の発動を行うことができる三権に匹敵する第四権力機関としての権限が生まれてしまうこととなる。(自衛権は一般の国政に含まれないとする学説もある。)こうなると、三権分立の統治原理が崩れ、三権に対して圧力をかけたり、干渉したりする可能性を有した第四権力を憲法中に書き込むこととなり得るのである。


 具体的には、「立法権を持つ衆議院・参議院」、「行政権を持つ内閣」、「司法権を持つ最高裁判所・下級裁判所」の三権に加えて、「自衛権を持つ何らかの実力組織」という第四権が加わることとなる。すると、現在で言う内閣の行政権の行使による実力組織(自衛隊など)などの行政機関への指揮監督権は、あたかも三権の抑制均衡のバランスを意図して配置されている『司法権』に対する「最高裁判所長官の指名」「その他裁判官の任命」や、『立法権』に対する「国会召集の決定」「衆議院解散の決定」「参議院緊急集会の要求」のような他の権力機関に対する権限へと変質してしまうこととなりうる。


 つまり、『行政権』を司る「内閣」の下級行政機関に対する指揮監督権(72条・73条)による「自衛の措置(国際法上の自衛権にあたるもの)」の権限が存在するわけではなく、「内閣」が「自衛権」を司る対等な権力機関に対して、四権の抑制均衡の作用としての権限しか持ちえないこととなるのである。(明確な条文はないことから、「自衛大権」とでもいうような、干渉できない独立の権限になるのかもしれない。)

 

 (下記の図は現在の三権分立の統治原理であるが、「内閣」の行政権(65条)として行政機関への指揮監督権(72条・73条等)を通して行使される「行政権としての『自衛の措置』」であったものが、「自衛権」という第四権力機関を設け、「三権分立」を「四権分立」の統治原理にしてしまいかねないということである。)

 

 現在の三権分立の統治原理を基本とした憲法イメージが脳裏に焼き付けられている者は、「そのような事態にはならない。」と安易に考えてしまうかもしれない。しかし、憲法の文言上においては、「三権分立」を基礎とした統治原理を採用するのか、「四権分立」を基礎とした統治原理を採用するのかを具体的に明示した総則的な条文は存在していない。そのため、三権分立の統治原理を採用していることの根拠としては、「立法権」「行政権」「司法権」以外の権力機関が他に存在していないという事実に頼っているのである。よって、それ以外の権限を書き込むことは、大前提として想定されている「三権分立の統治原理である」というイメージの根拠を乱すこととなる危うさを含むものなのである。

 つまり、後世の国民が、「この憲法は三権分立ではなく、四権分立の構造になっている。」と指摘した場合に、それを否定する根拠がなくなってしまうのである。


 そのため、憲法体系を乱すような運営をしたり、四権分立の統治原理の運営へと時の政府(自衛権の権力を有した第四権力機関になり得る勢力を含む)が解釈変更を行ったりする可能性を生むこととなるのである。


 このような可能性が現実化することとなれば、それは通常であればクーデターに近い事態であるが、憲法の文言解釈に従う以上はクーデターとは言えないのかもしれない。「もともと憲法がそういうものだった」と法解釈されてしまえばそれだけのこととなってしまうからである。


 ただ、法体系が乱れ、現在の国民の人権保障を維持することを目的とした本来の権力分立構造が乱れることから、国民の人権保障の実現が妨げられることとなる可能性は極めて高いと考えられる。


 このようなことは、「自衛権」の文言を加える加憲派は意図していないだろうが、文言上はそのような可能性を開いてしまうことを十分に考慮すべきである。

 


 直接関係するわけではないが、憲法の解釈方法によって大事件を巻き起こす可能性について、参考になる部分があるかもしれないので、天皇機関説も確認しておこう。

天皇機関説 Wikipedia

天皇機関説事件 Wikipedia



〇 「自衛権の発動は妨げない」などという風に、「自衛権」を許容する趣旨を憲法中に書き込むことは、「不戦条約戦争抛棄ニ関スル条約)」の締結時の精神から見ても検討を要する内容である。


 まず、不戦条約の内容を確認する。


(主要部分を抜粋)
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戦争抛棄ニ関スル条約(不戦条約)

(前文 略)

〔紛争の平和的解決〕
第一条 締約国ハ国際紛爭解決ノ為戦争ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互関係ニ於テ国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ厳粛ニ宣言ス。


〔戦争放棄〕
第二条 締約国ハ相互間ニ起ルコトアルヘキ一切ノ紛争又ハ紛議ハ其ノ性質又ハ起因ノ如何ヲ問ハズ平和的手段ニ依ルノ外之ガ処理又ハ解決ヲ求メザルコトヲ約ス。


〔批准、加入〕
第三条 (略)
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 次に、この不戦条約に対するアメリカ合衆国の解釈を見てみよう。


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●アメリカ合衆国の解釈(米国国際法学会におけるケロッグの講演)
      一九二十八年四月二十八日


 「不戦条約の米国草案には、どのような形ででも自衛権を制限しまたは害する何物をも含んではいない。その権利は、すべての主権国家に固有するものであり、すべての条約に暗黙に含まれている。すべての国は、どのような時でも、また条約の規定の如何を問わず、自国領域を攻撃またはは侵入から守る自由をもち、また、事態が自衛のための戦争に訴えることを必要ならしめるか否かを決定する権限を有する。国家が正当な理由を有しているならば、世界は、その国の行動を称賛し非難はしないであろう。しかしながら、この譲り渡すことのできない権利を条約が明示的に認めると、侵略を定義する試みで遭遇するのと同じ困難を生じさせることになる。それは、同一の問題を裏面から解こうとするものである。条約の規定は自衛の自然権に制限を付加することはできないので、条約が自衛の法的概念を規定することは、平和のためにならない。なぜならば、破廉恥な人間が合意された定義に合致するような出来事を形作るのは、極めて容易だからである。
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ベーシック条約集 2011  編集代表 松井芳郎  東信堂 amazon

ベーシック条約集〈2017年版〉 amazon)

 

 このように、「自衛権」を定義し、条文として位置づけることは、そのこと自体に「自衛目的の戦争」を誘発する危険を含むこととなり、平和のためにならないと考えられるのである。

 よって、「自衛権」を憲法中に書き込むことは、自衛目的の戦争を誘発する危険を含むものとなることから、『平和主義』を強く打ち出す日本国憲法の精神から見ても馴染むものではないのである。「自衛権」を憲法中で条文化することは相応しいものとは言えないと考えられる。




 これらのことから、「自衛権」の文言についても、憲法中に明記して書き込むことには問題があると考える。

 

 ただ、当サイトは、「自衛権」ではないが、「自衛の措置」という文言を第五章「内閣」の章の73条に設ける案について、下記で検討している。

 

 


 長文、お読みいただきありがとうございました。




<理解の補強>

自民有志、憲法9条に「自衛権」明記を提案へ 高村正彦副総裁「自衛隊明記以上のことはできない」 2018.1.24
高村氏 憲法9条2項維持し自衛隊規定条文を追加 3月までに集約 2017年1月24日

首相の自衛隊明記案に石破氏「30年前ならよいが…」 2018年1月28日

「自衛隊」ではなく「自衛権」を憲法に定める 改憲に関するアンケートを開始 2018年1月31日
憲法9条改正案は実現可能性が重要 - 石破案、青山案、山尾案は政局の産物 - 2018年2月2日

憲法9条、野中先生ご逝去など 2018年2月 2日

石破茂氏と憲法学の陰謀 2018年02月04日

9条の鍵は「放棄する」「保持しない」の目的語 西 修・駒澤大学名誉教授に聞く 2017年7月13日
護憲章派なる造語は、どこまで有効か 2018-02-15

 

国際法<第3版> (Next教科書シリーズ) 単行本(ソフトカバー) – 2018/1/22 amazon

 この書籍の下記の章が、国際機関の性質や自衛権の在り方などを法技術的に検討する上で参考になると思われる。初歩的な基本書ではあるが、内容は濃く、体系的で分かりやすい書籍である。
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第12章 国際法と国際機構
第13章 条約法
第14章 国際紛争の平和的解決
第15章 国際安全保障
第16章 武力紛争と国際法

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