希望の党 改憲案 一院制 法的分析等


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 若狭氏は、衆参両院を統合した「一院制」を、新党の政策の柱にする考えを示した。
 理由としては、国会議員の定数を大幅に削減することで、「コスト削減」や「スピーディーな決断」が可能となり、「しがらみ政治」からの脱却が実現できると強調した。

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「若狭新党」 政策柱に「一院制」 2017/9/13(水)

若狭氏、新党結成へ動き活発化=基本政策に「一院制」 2017/09/14


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 衆議院、参議院の対等統合による一院制により、迅速な意思決定を可能とし、議員定数と費用を大幅に削減する(再掲)。
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希望の党 政策について


  一院制とは、三権の一つである「国会」の機関に設置されている「衆議院」「参議院」の両院制(二院制)を廃止し、議院を一つにするということである。




 国会を一院制にすると、ポピュリズムに熱した選挙によって選出された議員が全国会を一度に占めることとなる。すると、国民が後に政党や議員の選択を失敗したと感じた際にブレーキが利かなくなってしまう。人権侵害のリスクは高まると考えることが妥当だろう。二院制は、冷静な判断を促し、時間をかけて良質な政策をつくり上げていく意図があるものと思われる。一時期の民意によって生まれた一時的な多数派の意思だけによって、少数派への人権侵害が行われるような危機を防止しているのである。


 もし一院制となった場合には、一度の選挙にそういった危機をカバーするだけの労力を投入しなくてはならないため、選挙活動が過激になり、より一層激務になると思われる。少数派にとっては極めて負担の大きい政治制度となり、露骨に弱肉強食が強調されてしまうような社会へと変容する恐れがある。熱しやすく冷めやすい民意の振れ幅によって、人権侵害のリスクは高まると考えられる。


 地方議会は一院制であるが、地方議会は「法律の範囲内で条例を制定することができる。(憲法94条)」とされており、地方税を徴収する条例や適度な罰則を含む条例を設けることができるものの、人権保障を大幅に損なわせるような条例の制定は法律の範囲を越えるために不可能である。この点、地方議会とは扱っている人権の重さが違うということを認識しておくべきだろう。地方議会と同じ感覚で法律制定や国会運営を行うことはやはり危うさを感じさせるものがあるのである。

 韓国は一院制である。韓国政治を参考とすると、一院制の制度のイメージは見えるかもしれない。ただ、韓国は大統領制であり、行政のトップは国民投票によって選ばれるため、日本の国会と内閣の議院内閣制よりは、日本の地方議会と同じような仕組みである。そのため、この一院制についての改憲案が、議院内閣制の一院制を指しているのかどうかまだ明らかでないが、その点も検討していくべきだろう。


大韓民国の政治 Wikipedia


 一般に、先進国では二院制が多いとされる。単にシンプルにすればいいというものではなく、人権保障を中核とした国家制度の理念をどのように反映させ、運営に至るのかという全体の流れを見渡していく必要があると思われる。安易に法制度のアクセシビリティを追求してしまうことによって、「国民の人権保障を実現する」という法制度がつくられた根幹にある本質部分、最大の目的となっているものを見失ってしまうことは避ける必要があるだろう。


一院制 Wikipedia
両院制 Wikipedia

 一院制とした場合、議院内閣制は維持するのだろうか。大統領制に移行するのだろうか。その点も、明確でない。

議院内閣制 Wikipedia

大統領制 Wikipedia

 一院制を導入すると、議院が解散した際に緊急の必要が生じた場合、現行憲法上の「参議院緊急集会(54条2項・3項)」を開くことができなくなってしまうことが考えられる。国防など、国の非常時にリスクは高まると考えられる。


参議院の緊急集会 Wikipedia


 ポピュリズムによる衆愚政治、議員の選出失敗による人材難、緊急集会の開会不能など、リスクマネジメントの観点から非常に大きな問題性があるのではないだろうか。


 上記記事において、一院制導入の目的について、

①「コスト削減が可能」

②「スピーディーな決断が可能」

③「しがらみ政治からの脱却」
が挙げられている。



①「コスト削減」については、選挙制度にインターネット選挙を導入するなどして実現する方法もあるのではないかと思われる。歳費については法律規定であると思われる。一院制にしなくとも法律改正で実現できると思われる。


国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律 条文
国会議員の歳費及び期末手当の臨時特例に関する法律 条文


ただ、議員の歳費と人材の質の相関関係も入念にチェックしないと、コスト削減によって、国家運営に必要な人材まで国政に寄り集まらなくなってしまい、国民の人権保障の質が下がる可能性がある。また、大企業など資金が潤沢に集まっている階層からしか人材が集まらず、国民の多様な層の意思を反映させることができず、格差社会を広げるなどの結果も考えられる。そのような観点も検討する必要があると思われる。

②「スピーディーな決断」について、立憲主義の統治原理は人権侵害を防止することを第一目標としており、一般企業の経営判断のような営利性が存在していない。そのため、「スピーディな決断」というものが本当に国民の利益になりうるのか、また、国民の不利益を十分に防止できるのか、ということが問われると思われる。「スピーディーな決断」を重視すると、劇場型政治の意思決定や中身のないパフォーマンスの議論に陥りやすく、国政全体が国民にとっての政治エンターテイメントとなってしまう可能性が考えられる。そのような事態に陥った場合、本当に国益に沿い、国民の利益につながるものとなるかどうかしっかりと考える必要がありそうである。


③「しがらみ政治」については、誰が何を対象として、どのように「しがらみであるか」を評価するかどうかという部分が大きく、制度改正自体の政治性を感じさせる面が含まれている。この点、この改憲案の提案者が何を敵視しているかというものが制度設計に含まれやすく、民意の総意とは別のところにあるように感じられる。




 二院制のメリットとして、異なるタイミング、異なる制度、異なる権限で議員を選出することによって、国民の様々な層の意思を国会に反映させる点が挙げられる。「ねじれ国会」などが批判されることがあるが、「ねじれ国会状態」とは、異なる時期に、異なる制度、異なる権限を持った民意が反映されているわけであり、制度理念から生まれる当然のものである。政治上に批判の対象となることはあっても、直ちに制度理念が間違っているということにはならないと考える。この点の分析について今後どのように説明がなされるかについても注目していくべきと思われる。





 上記①②の、「コスト削減」や「スピーディな決断」を目指して改憲を行っていくと、当然に裁判制度も「三審制」から「一審制」にしようという話にもつながってきてしまうだろう。すると、すべての裁判が現行の地方裁判所レベルで終局性を持った判決として確定してしまうこととなると思われる。民事上の原告・被告や、刑事上の検察官・被告人は、控訴や上告などの上訴を行って再度判断を仰ぐことができなくなってしまう。こうなると、国民の権利を救済する人権保障機能も下がってしまうことが考えられる。


 また、憲法ではないが、地方自治法の改正によって、市区町村制を廃止し、都道府県単位で行政を一括管理してしまおうとする動きも現れるかもしれない。「コスト削減」や「スピーディな決断」に繋がると考えられるからである。そうなると、きめ細やかな配慮の整った行政作用を損なわせ、国民にとって不利益をもたらす可能性が高まってしまうことが考えられる。これは、国民が求めている社会の在り方だろうか。「国民のためにかけるべき必要なコストではないだろうか」という視点や、「安易さの含まれる決断の速さが一人一人の国民の利益につながるのか」という視点を、しっかりと考えていく必要があると思われる。


 一院制導入の背景の思想としてあるものが、人権保障の実現を目指す憲法理念に貫かれているものでないのならば、国会以外の制度においても様々な弊害をもたらすこととなると思われる。




 憲法学者「小林節」の憲法審査会での発言を参考に、「憲法保障」の視点から二院制の意図を確認する。


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 さらに、国会の中に目を転ずれば、二院制というのも国会内権力分立でありまして、つまり、非効率を当然としながら、その非効率の中で正しさを図っていく。もちろん正しさというのは、先ほどの話にもありましたけれども、全ての人にとって正しさは違うわけですから、全ての人が等価値となれば、とりあえず一定任期は多数決に従って、そしてまたトライアルズ・アンド・エラーズでやり直していく、こういう非能率の中で正しさを担保していく。
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参考人 小林節(慶應義塾大学名誉教授)(弁護士) 第189回国会 憲法審査会 第3号 平成27年6月4日 (下線・太字は筆者)

 

 フランス革命期の一院制の記述を見てみよう。


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「第二院が代議院と一致するときは、無用であり、代議院に反対するならば、それは有害である」として、二院制を批判したとされる。ただし、シエイエスらがフランス革命期に作った一院制の議会である国民公会は暴走を起こし、政敵である少数派を次々に死刑にする恐怖政治を引き起こしている。恐怖政治はテルミドール9日のクーデターにより終結させられ、一院制の国民公会はわずか3年でなくなり、その後できた共和暦3年憲法では、恐怖政治への反省から、二院制の議会が作られている。
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エマニュエル=ジョゼフ・シエイエス Wikipedia


 ハイチの政治家の例も見てみよう。一院制は独裁を招きやすい傾向にあるとも考えられる。

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新たな憲法
1961年になるとデュヴァリエは57年に定められた憲法をないがしろにするようになるまず二院制を廃止して一院制を導入し、ついで新たな大統領選挙を行った。立候補したのはデュヴァリエ一人だった。しかも任期は1963年までであり、憲法は再選を禁じていたにも関わらずである。
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フランソワ・デュヴァリエ Wikipedia


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